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Episode3・うららかな昼下がり、北離宮の主人は15

「おそらくハーラルトが王立士官学校を受験したのはオルダー家再興が目的でしょう。オルダー家は先代で爵位を没収され、当主もすぐに病死したと聞いております。このハーラルトという少年は今回の魔力闘技会で上位の成績を残し、将来的に魔界の中枢に名を連ねることでオルダー家再興を魔王様に嘆願するのかもしれません」 「なるほど、納得できる理由です」  私は静かに頷きました。  ハーラルトの父親は先代魔王に仕えた為に爵位を没収され、そののちに病に倒れて亡くなりました。ハーラルトが物心ついた頃はすでに貴族の地位になく、辺境にある小さな村の貧しい家で母親と暮らしていたようです。  しかもただ貧しいだけではありません。処罰を受けてもオルダー家が先代魔王に加担した事実は消えません。ひどい差別や迫害にも苦しんだことでしょう。  そうした暮らしの中でハーラルトは家の再興を強く望むようになり、この王立士官学校に入学したのですね。 「この学校で頑張っているのでしょうね。きっと他にもそれぞれの事情を抱えた生徒がいることでしょう」  王立士官学校は身分に関係なくすべての子どもに門戸を開いています。  それは当代魔王ハウストの政策でした。  先代魔王時代まで王立士官学校は貴族の子息や息女しか入学できませんでした。しかしハウストはすべての子どもに学ぶ機会を公平に与えたのです。  入学試験に合格すればどの身分の子どもも入学できます。逆をいえばどれだけ高貴な貴族の子どもであっても入学試験に不合格ならば入学できません。いまや王立士官学校は完全に実力主義になり、入学できる子どもは学問・戦闘力・魔力などの分野で秀でた能力を持っていました。  その中で準決勝まで勝ち残ったのですからハーラルトが血の滲むような努力を重ねてきたことが分かります。  私はハーラルトの情報をしっかり読むと、次の生徒の情報を確認します。 「次はレベッカという女生徒なのですね。しかも学生会会長でしたか。すごいですね、すべての分野が優秀なんですね。学生会会長として校則改革にも取り組んで、…………ん? これは。おやおや、そうでしたか」  ふんふん頷いて、ちらり。コレットを見ました。  するとコレットが居心地悪そうに目を逸らしてしまう。  でも私はじーっと見つめます。ああどうしましょう、ニヤニヤしてしまいます。 「このレベッカという少女。あなたの親戚なんですね」 「…………そ、それは」  おや珍しい。  いつも沈着冷静なコレットが困惑しています。  そんな反応をされては楽しくなってしまうじゃないですか。 「とても優秀な学生のようですね。特に校則改革を成功に導いた手腕が高く評価されていますよ」 「まだ未熟な学生です」 「おや厳しいことを。やっぱり親戚でしたか」  見覚えのある家名だと思ったんですよね。  コレットは武門で名を馳せる家柄です。 「……身内の者であるからこそ、未熟と分かっている者を手放しで褒めることはいたしません」 「気持ちは分かります。あなたがあからさまに喜ぶ態度をとるとレベッカの立場を悪くすることもありますからね。身内贔屓と邪推されてしまうこともあるでしょう」 「お言葉、痛み入ります」  コレットは深々と頭を下げました。  責任感が強いコレットらしいことです。あなたはとても自分に厳しいですからね。  そんなあなただからこそ一番の側近として信頼していますよ。でもね。 「でも、邪推とはあなたのことを良く知らない者がすることです。だからこの場でくらい素直に喜んでください。身内が高く評価されるのは嬉しいことですから」 「ブレイラ様……」 「私はイスラやゼロスやクロードが褒められると嬉しくなって、とても自慢したくなるくらいなんですよ」  そう言って正面に座っているゼロスを見ました。  するとゼロスはニッと笑ってピースしてくれます。  次に隣にお行儀よく座っているクロードを見ました。  クロードは照れ臭そうにはにかむと、ゼロスを真似てピースでアピール。ちっちゃなピースが可愛いですね。 「ふふふ、たくさん自慢しますね」  私は二人に笑いかけるとまたコレットを見ました。  コレットは親戚であるレベッカのためだというけれど、それならば。 「あなたの親戚なら、贔屓だと邪推されたとしてもそれを黙らすほどの実力を見せてくれるのでしょう?」  口元に笑みを刻んで挑発的に言ってやりました。  コレットは目を丸めましたが、意味ありげに目を細めて挑発に乗ってくれます。 「レベッカが幼かった頃に戦術を指導したのは私です。ブレイラ様にもご満足いただけるかと」 「それは楽しみが増えました」  そうやりとりして私とコレットは笑い合いました。  コレットは私が王妃になる前から仕えてくれている側近女官です。時おり立場を忘れて友人のように接しあえることが嬉しいです。 「では次の生徒を見てみましょう。あっ、リオとルカです! ゼロス、リオとルカが準決勝まで残っていますよ!」 「えっ、ほんと!? どれどれ? おお~っ、二人とも頑張ってるね」  ゼロスも名簿を覗き込んでパッと笑顔になりました。  リオとルカには規格外の魔力があるので上位に食い込むことは予想していましたが、こうして勝ち残っているのを見ると嬉しくなりますね。

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