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Episode3・うららかな昼下がり、北離宮の主人は16

「さすが冥界の民ですね」 「まあね、僕んとこの子たちすごいでしょ?」  ゼロスはとっても誇らしげ。  その気持ち分かりますよ。学校ではリオとルカの経歴を伏せているので感動の再会とはいきませんが、今だけは贔屓してしっかり喜んでくださいね。  こうして王妃の隊列が雑木林の道を進むと、そこに王立士官学校が見えてきました。まるで一つの町のような巨大な学校です。 「着いたようですね」 「はい、今から生徒たちの出迎えがあります。その後はまず学長と会談をしていただき、次に闘技場で歓迎のセレモニーがあります。セレモニーが終わればそのまま魔力闘技会準決勝が始まります」 「分かりました。お願いします」  予定の確認を行なっていると、学校の門扉が開きました。  瞬間、ワアッと大歓声に迎えられます。  校舎までの道にはたくさんの学生たちが集まり、大歓声で出迎えてくれたのです。  私とゼロスとクロードは馬車の窓から手を振って歓声に応えました。  そして校舎の入口で馬車が停車します。入口には好々爺のような優しい風貌の学長を真ん中にして教師がずらりと整列していました。  馬車の扉が開くとコレットが降りて脇に控えます。  そして最初に降りたのはクロード。クロードは軽い足取りでステップを降りていきました。  次にゼロス。ゼロスは降りるとすかさず周囲に手をあげて歓声に応えますが、すぐに馬車の中にいる私を振り返りました。  そして少し気取った様子で手を差しだしてくれます。 「どうぞ、ブレイラ」 「ふふふ、ありがとうございます」  私は小さく笑ってゼロスの手に手を重ねました。  ゼロスがエスコートしてくれる機会はそれほど多くありません。  ハウストがいる時は必ず彼が私をエスコートします。彼はこの役目を決して誰にも譲りません。  ハウストが不在の時はイスラが担ってくれます。イスラも当然のように手を差しだしてくれるので必然的にイスラの役目です。  でも今日はハウストもイスラも不在ということで、ゼロスが張り切ってエスコートしてくれます。 「大きくなりましたね。頼もしいことです」 「子どもの時からこれしたかったんだよね。いつも父上と兄上ばっかりだったから」 「そうでしたね」  私はそう答えて、ぎゅっぎゅっ。  重ねていたゼロスの手をぎゅっと握りしめてこっそり笑う。いたずらを仕掛けた私にゼロスもニヤリ。 「どうしよっ。このままダンスしちゃいたい気分」 「ふふふ、いきなりダンスを始めたら、ここにいる方々がびっくりしてしまいますよ」 「ざんねん。今度の夜会で相手してね」 「喜んで」  私とゼロスは小声で内緒の言葉を交わしました。  こうして馬車を降りると改めて学長と教師たちに向き直ります。 「みなさん、ごきげんよう。本日はよろしくお願いいたします」 「ようこそ王立士官学校へ。お待ちしていました」  学長が挨拶して深々と一礼しました。  それにあわせて整列した教師たちも頭を下げます。  こうして私とゼロスとクロードの王立士官学校の視察が始まるのでした。 ◆◆◆◆◆◆  王立士官学校で王妃の視察が始まった。  それは以前から決まっていたことだが、当日の今日になって生徒たちのあいだに大激震が走っていた。  なぜなら、冥王ゼロスも同行していたからだ。  幼い次代の魔王クロードが王妃と一緒に来ることは事前に分かっていた。どの視察でも王妃とほとんど一緒で、ちまたでも王妃と手を繋いでちょろちょろしてる姿がかわいいと話題だ。  でも今回は冥王ゼロスが同行している。  十五歳のゼロスは冥王の政務が多忙で王妃の視察に同行する機会は多くない。それなのに今回は急遽同行が決まったのだ。生徒たちは興奮した。間近で四界の王の一人である冥王の姿を見ることができるのだから。 「リオ! リオ、聞いた!? 冥王様が学校に来てる!!」  バタンッ!  ルカが魔力闘技会出場者控室に飛び込んだ。  控室の隅にいたリオがうるさそうに振り返る。 「……知ってるよ。控室でもさっきからその話題で持ちきりだ」  そう、リオの言うとおり控室内は騒ぎになっていたのだ。  王妃一行は現在学長と会談中で、それが終われば歓迎セレモニーが始まる。  セレモニーでは学生たちのダンスや演舞といった催しが披露され、王妃一行の視察を歓迎するのである。他にも召喚獣の飼育研究を専攻している学生たちの研究発表も目玉の一つだ。  王妃や次代の魔王だけでなく冥王ゼロスにも披露できるとあって、どの生徒たちも高揚して俄然張り切っていた。 「リオ、頑張ろうね。王妃様だけじゃなくて冥王様にも見てもらえる。絶対優勝しよう」 「ああ、絶対だ。個人戦、団体戦、最優秀賞、全部狙ってくぞ」  二人は気合いを入れて頷きあった。  個人戦優勝、団体戦優勝、最優秀賞、王妃と冥王のためにすべてを受賞したい。  だがそう考えるのは二人だけではなかった。 「悪いけど三賞を受賞するのはレベッカ様よ」 「そうそう、特待生だろうと関係ない。レベッカ様が三賞だ」  そう言って割り込んできたのはレベッカの取り巻きだった。  取り巻きといっても団体戦出場者の上級生である。一人ひとりが学校でも名の知れた実力者だ。  ルカは上級生に囲まれて青ざめたがリオは一歩も引かない。それどころか強気に言い返す。 「つるまなきゃ何もできない奴らは黙ってろよ」 「お前、上級生に向かってっ」  取り巻きがリオに怒鳴ろうとしたが、その時。 「――――ここは控室だ。慎め」  厳しい声に遮られた。  団体戦出場の上級生が背筋を伸ばして道を作ると、その真ん中をレベッカが歩いてきた。  レベッカは上級生でありながら下級生のリオとルカに謝罪する。

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