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Episode3・うららかな昼下がり、北離宮の主人は17

「私のチームが迷惑をかけて申し訳なかった」  学生会会長の謝罪にルカは恐縮して首を横に振る。 「い、いえ、そんな、こちらこそ……」 「こちらは何もしてねぇだろ」 「こら、リオっ」  ルカが慌てて注意した。  リオは面白くなさそうな顔をしたが、双子のやり取りに厳しかったレベッカの表情が少しだけ柔らかくなった。 「あなた達がいるチームと対戦するのを楽しみにしている。もちろん個人戦も」 「ぼ、僕たちも楽しみにしてますっ」  個人戦はその名のとおり一対一のトーナメント戦だ。  団体戦もトーナメント戦で、七対七のチームで勝ち上がっていく。  リオとルカとレベッカは個人戦と団体戦の出場を決めていた。 「私も三賞受賞を狙っている。負けるつもりはない。正々堂々と戦おう」 「はいっ」  ルカが背筋を伸ばして返事をした。激励ともいえる宣戦布告に奮い立つ。  だがそんなやり取りをしていると控室の隅から不機嫌な声。 「――――うるせー」  振り返るとそこにはハーラルト。  ハーラルトが冷めた目で睨んでいたのだ。 「しゃべったとこ初めて見た……」  思わずルカから本音が漏れる。ハーラルトは今まで誰とも関わろうとしなかったのだ。  しかしさすがに魔力闘技会の準決勝を前にすると違っていたようで、こうして文句を言ってきたのもハーラルトなりに緊張しているからだ。  だがリオも不機嫌に目を据わらせる。 「ボッチは黙ってろ」 「僕たちも友だちいないよ」 「余計なこと言うなバカッ」  すかさずリオがルカを黙らせた。  個人戦出場者はリオ、ルカ、レベッカ、ハーラルトの四人。この中で友だちがいるのはレベッカだけである。 「……下級生は個性派揃いのようだ」  レベッカは呆れた顔で言ったのだった。 ◆◆◆◆◆◆◆  王立士官学校の広大な敷地には円形闘技場があります。  学長との会談を終えた私は円形闘技場に入場しました。  瞬間、闘技場をぐるりと囲む観覧席から大きな拍手と歓声があがります。生徒たちが大歓声で迎えてくれたのです。  私はゆるりと微笑んで手をあげて歓声に応えました。  一緒に入場したゼロスも笑顔で歓声に応えています。ゼロスが口元に手を当ててチュッと投げると、生徒たちから黄色い歓声があがっていました。 「キャーーーー! 冥王様あああ!!」 「冥王様、ステキーー!!」 「みんな、ありがとー! 僕もみんなのこと大好きだよー!」  ゼロスは注目を集めて大満足のようです。  冥王がする挨拶としては軽すぎですが学生たちには大好評のようですね。ゼロスは子どもの頃から歓声に応えるのが大好きな子でした。  私はゼロスに苦笑しながらも手を繋いでいるクロードを見下ろします。クロードは初めて訪れた円形闘技場を物珍しげに見回していました。 「クロード、あなたも手を振ってください」 「ん? あ、そうでしたっ」  クロードも慌てて手を振って歓声に応えました。  うっかりしていた自分に恥ずかしそうにしますが、上手に手を振ってえらいですよ。  こうして入場すると私たちは特別観覧席に案内されます。  特別観覧席には装飾が施された椅子が三つ。真ん中の椅子に私が着席すると、ゼロスとクロードも左右の椅子に着席しました。  特別観覧席の周囲には私の女官や侍女が控えてくれます。私はここから今日のセレモニーや魔力闘技会を見学するのです。  私たちが特別観覧席に着席すれば歓迎セレモニーが始まります。  まず下級生たちのダンスが始まり、続いて上級生の演舞や剣舞が催されました。  そして最後は召喚獣の飼育研究を専攻している学生たちの研究発表が始まります。王立士官学校の生徒は将来的に研究者への道を志す者もいるので、研究発表をしている生徒たちは研究者の卵ともいえるでしょう。 「へえ~、そんな研究もあるんだ。おもしろいね」  ゼロスが感心したように研究発表を聞いています。  この子は子どもの頃から召喚獣や動植物が大好きなので興味津々なのです。  現在、発表されているテーマは高度召喚獣の召喚と制御でした。高度召喚獣は強大な力を持っていますが一般人にはとても召喚できません。  召喚できたとしても気性が荒くて制御するのが難しく、逆に召喚士が襲われてしまう事故も多発していました。  もちろん四界の王なら高度召喚獣も希少種召喚獣も問題なく召喚できますが、それはもう例外中の例外というものですからね。

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