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Episode3・うららかな昼下がり、北離宮の主人は18

「わあっ、ブレイラみてください! しょうかんじゅうがダンスしてます!」  クロードが驚いた顔で闘技場の舞台を見ています。  舞台では五頭の高度召喚獣の赤ちゃんがダンスをしていました。見た目はクマのようですが、大きく裂けた口からは鋭い牙が覗いて前足の鍵爪は鎌のように鋭いものでした。背中には巨大な翼が生えていて飛行も可能です。  本来この高度召喚獣は獰猛な種類で、一般の召喚士が制御するのは難しいものでした。  しかし研究室で人工授精に成功し、生まれた時から人の手で飼育されたこともあって人に懐いているようですね。今はリズムに合わせて楽しそうにダンスしています。 「ダンスをする召喚獣なんて初めて見ました。あの召喚獣はまだ赤ちゃんなんですよね、なんだか動きが可愛いです」 「うん、まだ赤ちゃんだよ。大事に育てられてるんだね、楽しそうにダンスしてる」  ゼロスも楽しそうに召喚獣のダンスを見ています。  高度召喚獣の召喚は難易度が高いですが、懐いてくれれば制御しやすいので難易度は下がるのです。研究では人工飼育することでそれを可能にしたのでしょう。 「この研究、広がると思いますか?」  私はゼロスに聞いてみました。  冥王ゼロスは召喚獣に関して優れたセンスを持っているのです。  ゼロスは楽しそうに召喚獣のダンスを見ながらも、「うーん」と少し難しそうに考え込みます。 「…………今はまだ赤ちゃんだから制御可能なんだと思う。どんなに懐いてても成獣になったら難しくなるかな」 「やはり制御は簡単なものではないのですね」  厳しい答えです。  学生たちの取り組んだ研究はとても難易度が高いもののようですね。 「制御の絶対条件は召喚獣を制することだから、召喚士の強い魔力は絶対必須だよ。でも」  ゼロスはそこで言葉を切ると優しく目を細めます。 「でもとっても楽しそうだね。ずっと同じ担当者が成獣になるまで大切に育てれば、もしかしたら成獣になっても特別に懐くことがあるのかもしれない」 「愛着ですか?」 「うん、特別な信頼感があれば召喚士の魔力なんて召喚獣も気にしないと思う」 「まるで家族のようですね」 「そうそれ。家族になっちゃえば関係ないから」 「ふふふ、そうなればステキです」  こうして私たちは学生の研究成果を観覧します。  召喚獣のダンスが終わって大きな拍手を贈ると、歓迎セレモニーは無事に終了しました。  そしていよいよ魔力闘技会が始まるのですね。 「ブレイラ、いまからじゅんけっしょうですか?」 「そうですよ。クロード、しっかり応援しましょうね」 「はい!」  クロードが興奮しながらも大きく頷きました。  クロード自身も毎日のお稽古を頑張っているので、こうした闘技会の観覧は大好きなのです。  私たちが見守る中、魔力闘技大会の司会者が開会を告げて個人戦のトーナメント準決勝が始まります。  まず個人戦準決勝に出場する四人が舞台に姿を見せました。レベッカ、リオ、ルカ、ハーラルトの四人です。  久しぶりにリオとルカの姿が見れて私は嬉しくなりました。二人ともとても元気そうですね。 「ゼロス、リオとルカですよ。少し大きくなりましたね」 「そうだね、体付きも変わってる。よく鍛えてるみたいだ」  ゼロスが舞台の二人を見ながら言いました。  本当は二人に向かって手を振りたいけれど、私たちはそれが許されません。  特別に設えられた観覧席から出場者の雄姿を見守ることしかできないのです。 「――――では個人戦の準決勝を始めます。まずレベッカ対リオ!」  舞台でレベッカとリオが対峙しました。  開始と同時に二人の魔力がぶつかりあい、剣を抜いて戦います。  見事な剣技ですが、同時に炸裂する強烈な魔力は迫力があるものでした。  そしてレベッカの一瞬の隙をリオは見逃しません。一気に距離を詰めてレベッカを場外へ押し出しました。 「勝者、リオ! 決勝進出とする!!」  リオが勝利して決勝進出を決めました。  観覧席は興奮と熱狂で盛り上がります。私たちも大きな拍手を送りました。 「リオが勝ちました。決勝進出です」 「すごいですっ! おおきなまりょくでした!」  クロードも興奮したようにパチパチ拍手しています。  学生たちが見せてくれる戦闘にクロードは夢中ですね。  ゼロスも満足そうに頷いて見ていました。 「以前より強くなってる。感心感心」 「ふふふ、見事ですね。よく訓練しています」 「うん。悪くない」  もちろんゼロスの規格外の戦闘力からすれば学生の戦闘など遊戯のようなものでしょう。未熟な部分をたくさん見つけてしまっているはずです。でも今は学生たちがせいいっぱい戦う姿を楽しそうに見守っています。  こうしてレベッカ対リオの戦いが終わり、次はルカ対ハーラルトの戦いが始まりました。  私は次の対戦もワクワクしながら見ようとしましたが。 「――――えっ?」  驚きに目を見開きました。  驚いたのは私だけではありません。盛り上がっていた観覧席も一瞬で静まり返ります。  だって始まったと思ったら、すべてが終わっていたのですから。  司会者が困惑しながらも声をあげます。 「し、勝者、ハーラルト! 決勝進出はハーラルト!!」  そう、勝者はハーラルト。  対戦が開始した次の瞬間、ハーラルトは光速の剣技でルカの魔力を切り裂き、鼻先に剣の切っ先を突きつけて反撃を封じました。まさにすべてが一瞬、光速の剣技。

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