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Episode3・うららかな昼下がり、北離宮の主人は19

「す、すげぇ!! 嘘だろ!? なんだよあれ!!」 「見えなかったぞ! いったいどうなってるんだ!!」  静まり返っていた闘技場に大歓声が戻りました。  観覧席は神業のような剣技に大興奮です。  もちろん私も驚きを隠せません。 「なんて見事なっ……。私には見えませんでした」  呆然と呟きました。  隣のクロードも「わたしはちょっとだけ」と目をぱちくりしています。  でもゼロスにはしっかり見えていました。  ゼロスは特に驚いた様子もなく、「おもしろいね」と学生たちのレベルに満足そうです。 「クロード、ハーラルトは最初の攻撃で魔力を切り裂いたけど、それが連撃だったのは見えてた?」 「みえてました」 「よしよし、それなら何回だった?」 「えっと、えーっと、……よんかい、ですか?」 「ざんねん、六連続の連撃だったよ」 「うぅっ、まちがえましたっ……」  クロードが唇をかんでプルプルしてしまいました。  見逃してしまって悔しいのですね。 「クロード、落ち込まないでください。私は連撃だったことも気付けませんでした」 「でも、わたしはつぎのまおうだから、みえてなきゃダメなんです」 「今度、剣術の特訓の時に連撃の基礎を教えてあげるよ。そしたら見ることも慣れてくると思う」 「はいッ」  クロードが真剣な顔で返事をしました。  ゼロスと次の特訓の約束ができて張り切っています。 「クロードは頑張り屋さんですね。えらいですよ」 「はい、わたしはりっぱなまおうになるので。ブレイラもわたしのことステキっておもうとおもいます」 「ふふふ、いつも思っていますよ」  私はクロードに笑いかけて、ゼロスを見つめました。 「負けてしまったルカは残念でしたが、見事な戦いでしたね」 「うん、相手がルカだからハーラルトも本気を出してきたんだと思う。あの子の剣技は学生レベルを超えてるね」 「あなたがそこまで言うならハーラルトの剣の技術は本物なのですね。きっと厳しい鍛錬を耐え抜いてきたことでしょう」  私は観覧席から舞台のハーラルトを見下ろしました。  ハーラルトはまだ幼さを残した顔立ちをしながらも、強い瞳でまっすぐこちらを見上げています。  目が合って、ゆるりと微笑みかけました。  するとハーラルトは背筋を伸ばして深々と一礼してきました。礼儀正しい子どもです。  私は見事な勝負を見せてくれたハーラルトとルカに拍手を送りました。 ◆◆◆◆◆◆  出場者控室。  リオの前でルカは正座して縮こまっていた。 「……なに負けてんだよ、ルカ」 「ご、ごめんなさい……」  ルカは言い訳もできずに謝った。  自分でも感心するほど見事な敗北だったのだ。  リオはルカをぎろりっと睨んだが、少しして「はーーっ」とため息をついた。 「もういい。ハーラルトは俺が倒す」 「さすがリオっ。期待してる!」  ルカはほっと安心してリオを応援した。  本当は決勝で戦ってどちらかが個人戦を優勝するつもりだったが予定変更だ。次の決勝でリオがハーラルトを倒して優勝することにする。  だが。 「でもさ、ハーラルトって僕たちが予想してたよりずっと強かったよ。リオも気付いてるよね」 「ああ。あいつ今までの試合では手加減してたんだ」  そう、ハーラルトは二人が予想していたよりずっと強かった。  おそらく剣術だけなら学内で一番かもしれない。いや、おそらく魔界屈指の精鋭部隊に所属されたとしても即戦力になるレベルの剣技だった。  リオは先ほどの戦いを思い出して舌打ちする。  リオの戦闘力もそれなりのものだが、悔しいが剣の技術が違い過ぎる。生半可な戦いを仕掛けても剣で切り伏せられてしまうだろう。  剣には剣で対抗したい。しかし今の実力ではハーラルトに太刀打ちできない。 「ハーラルトってめちゃくちゃ強いけど、なんとかなりそう?」 「今考えてるところだ。……あっ、そういえば」  リオはなんとかならないかと考えを巡らし、そういえばと思い出す。  以前、リオはハーラルトよりずっと強い剣の使い手と戦ったことがあるのだ。 「そうだっ、オレは勇者様と戦ったことあるんだ!」  あの冥界で潜伏していた時に勇者イスラと戦ったことがあった。  特殊工作魔法陣を仕掛けて勇者を追い詰め……、……追い詰められなかった。  剣で立ち向かって攻撃を……、……仕掛ける前に反撃されてしまった。あげくに抵抗を封じられてまともに戦うこともできなかった。  今思い出すと無鉄砲さに震えあがる。あの時どうしてなんとかなると思ったのか。 「どう? 参考になりそう?」 「ッ、うるさい! なるわけないだろ!」  ダメだった。勇者は格が違いすぎる。剣筋すら見えなかったのに参考になるはずがない。  これならまだハーラルトを相手に戦ったほうが勝機がある。  そこまで考えてリオはハッとした。  そうだ、勇者を相手に戦うわけじゃない。相手は自分と同じ学生だ。  剣術はハーラルトが上かもしれないが、魔力はリオの方が上だ。 「いくぞ。個人戦は俺がもらう」 「がんばれ! 応援してるからね!」  ルカがグッと拳を握って応援する。  リオも強気にニヤリとすると、決勝の舞台へと向かうのだった。 ◆◆◆◆◆◆

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