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Episode3・うららかな昼下がり、北離宮の主人は20
「ブレイラ、つぎはけっしょうせんですね」
「はい、次は個人戦の決勝戦です。楽しみですね」
興奮するクロードに目を細めました。
闘技舞台の準備が整って司会者が進行を開始します。
「では個人戦決勝を始めます。リオ対ハーラルト!!」
進行にあわせてリオとハーラルトが舞台に姿を見せました。
その姿に観覧席は熱狂と興奮でいっぱいになります。
「うおおおっ、始まったぞ!!」
「行けっ、謎の留学生リオ!!」
「ハーラルト、見せてやれ!!」
先ほどの見事な準決勝のおかげでとても盛り上がっていますね。
「学生とは良いものですね。私まで元気になります」
私が戦うわけではないのに学生たちの声援を聞いているだけで元気がみなぎるというもの。
「次はどんな戦いになるのか僕も楽しみだよ」
「ゼロスにーさまのほうがずっとつよいのにですか?」
「うん、まあね。二人がどんな戦術をとるのか見たいし、自分だったらどう戦うか考えながら見るんだよ」
「そっか! そうやってみればいいんですね!」
「そうそう、クロードも頑張って」
「はいっ!」
クロードはお稽古中のようなお利口な返事をすると、背筋をピンッと伸ばして舞台に集中します。
私はそんなクロードに小さく笑い、ゼロスをちらりと見ました。
ゼロスが学生の戦いを見たい気持ちは本当でしょうが、でももう一つの『自分だったらどう戦うか考える』というのはクロードのための言葉でしょう。張り切るクロードにゼロスが満足そうに頷いています。
こうして私たちが見守る中、とうとう決勝戦が始まりました。
リオが攻撃魔法を仕掛けてハーラルトが魔力ごと連撃で切り伏せます。そのままハーラルトが攻撃に転じましたが、リオは反撃を読んでいたように魔力で防ぎました。
「あ、さっきルカが負けたところを乗り切りましたね」
感心します。
やはりリオは対抗策を考えていたのでしょう。
ハーラルトの剣技を警戒しながら得意の魔力を使って戦っています。
舞台ではハーラルトの闘気とリオの魔力が衝突し、その衝撃波は観覧席まで伝わってくるほどでした。
「ブ、ブレイラ……」
隣に座っていたクロードがじりじり私に近付いてくる。
今にも私たちのところまで衝撃波が届きそうで不安なようです。
「クロード、大丈夫です。ほら、みなが守ってくれています」
「あ、ほんとです」
クロードがほっと安堵しました。
それというのも闘技場の各所に配置されている教師や上級生が防壁魔法陣を発動しているのです。
強力な防壁魔法陣のおかげで観覧席に被害が及ぶことはありませんでした。
「そろそろ決まりそうだよ」
ゼロスが戦闘を見ながら言いました。
もうすぐ決着がつくのですね。私とクロードも緊張します。
戦闘が激しさを増すにつれて観覧席を守っている教師や上級生たちの防壁魔法陣が強くなります。
部隊の中心ではハーラルトの神速の剣が閃き、リオの魔力が応戦します。そして二人の凄まじい闘気と魔力がぶつかりあい、強烈な閃光が連続で炸裂しました。
「うぅ、ブレイラ、まぶしいですっ……」
クロードが小さな両手で顔を覆いました。
防壁魔法陣で衝撃波は塞げますが閃光の光までは遮断できません。
私もローブの袖で目を覆うと、控えていた女官たちもすぐにレース編みの大きな団扇で光を遮ってくれます。それでも強力な光が差してきましたが。
「ブレイラは僕の影にいてね」
私の前に人影が立ちました。ゼロスです。
ゼロスは私に背中を向けたまま、片手を腰に置いた格好で舞台を見下ろしています。
「にーさま、まぶしくて、よくみえません~っ……」
「これ眩しいだけで無害だから、クロードはがんばって見るようにね」
「うぅ、ちゃんとみますっ……。あ、ちょっとなれてきました」
クロードは指の隙間から薄目になって見ていました。
少しして徐々に光が収まりだします。
「ブレイラ、そろそろ大丈夫」
「ありがとうございます。助かりました。それで決着はついたのですか?」
「見ての通りだよ」
ゼロスが私の前から退くと、女官達の団扇もゆっくりと上がって視界が開きます。
ああ、二人ともよく頑張ったのですね。
闘技場の舞台には二つの人影。
ハーラルトは剣を支えにして片膝をついていました。そのハーラルトが見つめる先には仰向けに倒れているリオの姿。
司会者はハーラルトとリオの状態を確認すると判定します。
「勝者、ハーラルト! 個人戦優勝者はハーラルトとする!!」
「うおおおおお!! すげぇっ、二人ともすげぇよ!!!!」
「おめでとう!! おめでとう!!」
「二人ともすごかったぜ!!」
観覧席から大歓声があがりました。盛大な拍手がハーラルトとリオを祝福します。
私も舞台の二人に祝福の拍手を贈りました。
素晴らしい決勝戦でした。
「個人戦の勝者が決まりましたね。ハーラルトの剣技もリオの攻撃魔法も素晴らしいものでした」
「うん、僅差だったよ。どっちが勝っててもおかしくなかったかな」
ゼロスは満足したように頷いています。
リオが負けてしまったことは残念ですが、二人の戦闘レベルは冥王を充分楽しませたものだったようですね。
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