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Episode3・うららかな昼下がり、北離宮の主人は23
「冥王様っ……」
「冥王様だ!」
「すげぇ、これが冥王様の防壁魔法……!」
観覧席の生徒たちは冥王の魔力に沸き立ちました。
興奮の大歓声をあげる生徒たちにゼロスは「どうもどうも」と軽く手をあげて応えると、椅子からゆっくり立ち上がります。
そして舞台で戦っている九人の生徒を見下ろしました。
九人は緊急事態に戦闘を中断していましたが冥王の姿に全員が整列します。
「お騒がせし、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした!」
レベッカが代表して特別観覧席の私たちに向かって謝罪し、他の生徒もいっせいに頭を下げました。
この魔力闘技会は御前試合です。私に危害が及びかねない戦闘は中止になりかねません。
もちろん私はそれを望みません。
私は下段の席にいる学長や理事など学校関係者を見ます。この大会の最終判断は学長ですからね。
「学長、私も続行を希望します。生徒たちはゼロスが守ります」
私がそうお願いすると、学長は優しい笑顔ですぐに決断してくれます。
「分かりました。王妃様と冥王様の寛大な御心に感謝いたします。生徒たちも喜びます」
「こちらこそありがとうございます。私も生徒たちに感謝していますよ」
そう言って私は微笑みました。
良かった。ここで中止になるのは勿体ないですからね。
「ゼロス、あとはよろしくお願いしますね」
「うん、任せてよ。ブレイラもここにいる生徒たちも僕が守るよ」
ゼロスは当然のようにそう言うと、舞台の出場者九人に向き直ります。
「両チームとも全力をだしていいよ。僕が守るのは観覧席だけじゃない、君たちもちゃんと守ってあげるからね」
「冥王さま、それじゃあっ……」
「中途半端なんてもったいないでしょ」
そう言ってゼロスがニヤリと笑いました。
瞬間、観覧席からワアッと大歓声が上がりました。
ゼロスの言葉、それはなにがあっても最悪な事態にはならないということでした。
この闘技大会の舞台は戦場を模しています。しかしあくまで学生の競技の域を出ないもので、対戦相手を死傷させたり後遺症が残るような大怪我を負わせることは許されません。
そのため、上位成績者同士の戦いでは力を制御することになります。対戦相手に重傷を負わせてしまいかねないからです。
でも今、冥王ゼロスが保護を約束しました。
「戦闘再開だよ。僕に全力を見せてね」
「うおおっ、すげぇっ、こんなの初めてだ!」
「舞台が本物の戦場になるぞ!」
「いけ! どっちもがんばれ!!」
大歓声のなかで戦闘が再開しました。
レベッカがチームの陣形を変更して今までになかった戦術を見せだします。
「動きが変わりましたね」
「わたし、あれしってます! こうぎでならいました! タイミングをよむのがすごくむずかしいんです! こんなところでみられるなんて!」
クロードが興奮した口調で言いました。
私が説明を求めるようにゼロスを見ると教えてくれます。
「あれは奇襲を仕掛ける時に実際の軍隊でも使われる戦術だよ。一見派手な掃討作戦に見えるけど、緻密な計算がないと成り立たないんだ」
「とても高度な作戦行動なんですね」
「まあね。成功率が指揮官の力量に大きく左右される戦術だから滅多にお目に掛かれないよ。まさかこんなところで見れるなんてね」
ゼロスが感心したように言いました。
レベッカの指揮する陣形は敵を確実に追い込むものでした。
七人の連携がリオとルカを分断して追い詰めていきます。
「リオとルカを連携させるな! 引き離せ!!」
レベッカの指令でチームが的確に動きました。
この決勝に出場している生徒は学内の上位成績優秀者たち。普段の訓練では他の生徒に怪我を負わせないために力を制御している生徒たちでした。
でも今は冥王が保護を約束したので生徒たちも全力で戦っています。
「戦闘中に思うことではありませんが、みなが溌剌としているように見えますね」
「うん。この魔力闘技会に出てる子はレベル高い子が多いし、学生の訓練のうちは全力がだせる機会も少ないしね」
「あなたのおかげです」
「ブレイラが一緒に連れてきてくれたからだよ。また僕も誘ってね」
「ふふふ、考えておきましょう」
ゼロスと話している最中も激しい戦闘は続きます。
素人の私には徐々にリオとルカが追い込まれていっているように見えましたが、レベッカの顔は険しいままです。そして両チームの攻撃が最大威力を放ち、闘技場に大きな爆発が起こりました。
威力と衝撃波に砂塵が舞い上がって視界を塞ぎました。
観覧席が固唾を飲む中、やがて砂塵の壁が晴れていく。
闘技場の舞台に最後まで立っていたのは、――――リオとルカでした!
「し、勝者! リオとルカ! 団体戦はリオとルカのチームが優勝です!!」
司会者が勝者を告げました。
瞬間、観覧席からは大きな拍手と大歓声があがります。
その中心でリオとルカは安堵したように息を吐き、二人でグッと拳を掲げました。
そして二人が特別観覧席にいる私とゼロスを見上げます。
今すぐ祝福の言葉をかけたいけれどそれは出来ません。
だから見つめて、目が合って、そっと頷きかけました。
するとリオとルカはまっすぐに背筋を伸ばして私とゼロスに向かって深々とお辞儀します。
私とゼロスはそれを見つめ返すしか出来ませんが、祝福の気持ちは伝わったことでしょう。
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