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Episode3・うららかな昼下がり、北離宮の主人は24

「ゼロス、両チームとも素晴らしい戦いを見せてくれましたね」 「うん、面白かったね。学生の戦闘レベルが高くて驚いたよ」  ゼロスが感心したように頷きました。  私も頷いて、それを実現してくれたゼロスに感謝します。 「ゼロス、レベッカのチームの方々を守ってくれてありがとうございました。おかげで無事に魔力闘技会が終わりました」  あの最終決戦のさなか、リオとルカの強力な攻撃魔法にレベッカのチームは制圧が失敗し、それどころか致命傷になる反撃を食らいました。しかしその寸前、ゼロスの防壁が発動して生徒を守ってくれたのです。それは高度な魔力コントロールを必要とするもので、決して簡単にできるものではありません。冥王だからこそいともたやすく行使できるのです。おかげであれほどの戦闘でも怪我人はいませんでした。 「約束したからね。ちゃんと守るよ」 「はい、ありがとうございました」  私はそう言って笑いかけると次にクロードを見ます。  クロードは興奮冷めやらぬようですね。決勝戦が終わっても小さな拳をグッと握ったままです。 「クロード、どうでしたか? みなさん、よく頑張っていましたね」 「はいっ、すごかったです! ほんとうのたたかいみたいでした!」  クロードは瞳をキラキラ輝かせて感動したところを教えてくれます。 「こじんせんはハーラルトがすごかったです!」 「そうでしたね。素晴らしい剣技でした」 「だんたいせんではレベッカもすごいとおもったんです。みんなのうごきがそろっててびっくりしました。ほかにもぼうへきをつくってたひとたちもいっぱいちからをだしてましたよね! わたし、それもすごいなっておもったんです!」 「そうですね。あの団体戦では出場者だけでなく、たくさんの人の力を見せていただけました」  あの団体戦を安全に開催するために多くの教師や上級生も限界まで防壁魔法陣を発動して尽力してくれました。途中からはゼロスが防壁を引き継ぎましたが、それでも彼らは学内トップクラスの力を示してくれたのです。 「クロード」 「なんですか?」  呼びかけるとクロードがきょとんとした顔で振り向いてくれました。  その幼い表情に目を細めます。この子はまだあどけない五歳の子どもです。でも次代の魔王でした。 「クロード、この魔力闘技大会で戦った学生たちのことを忘れてはいけませんよ。そして観覧席にいる学生たちのことも」 「ブレイラ?」 「あなたは次代の魔王です。いずれ当代魔王ハウストからすべてを継承し、魔王に即位する時がきます。魔王とはすべての魔族の保護者であらねばなりません。それは時にあなたを苦悩させることもあるでしょう」 「ほごしゃ……」  クロードが緊張した顔になりました。  この子は自分が次代の魔王であることを自覚しています。  私はクロードに優しく笑いかけ、一緒に観覧席を見つめました。 「クロード、よく見ておきなさい。ここにいる学生たちはその時にあなたを支えてくれる世代なのです。彼らはあなたとともに魔界を守ってくれるでしょう。だからあなたも彼らを保護するのです。忘れてはいけませんよ?」 「は、はいっ」 「よいお返事です」  いい子いい子と頭を撫でてあげました。  この子にとって魔王の重責と重圧はまだ想像の域を出ませんが、それでも真剣な顔で私の話しを聞いて、その意味を考えてくれます。今はそれで充分です。  こうしてお話ししている間、舞台では魔力闘技大会閉会の準備が終わりました。 「それでは今から閉会式と授与式を始めます。まず個人戦と団体戦の優勝者は壇上へ!」  司会者がそう言うと壇上に個人戦優勝のハーラルト、団体戦優勝のリオとルカのチーム七名が整列しました。  優勝者には私が優勝旗と盾を手渡しします。そして閉会式が終われば私と歓談する時間が設けられていました。歓談といっても公式なので学生が王妃から祝福を受けるという形式のものですが、広間で王妃に対面を許されることは学生にとって名誉なことだそうです。 「ブレイラ様、こちらへ」 「はい」  私はコレットに促されて立ち上がりました。  コレットに先導されて舞台へ降りる階段を下りていきます。  私が舞台に降り立つと観覧席からは盛大な拍手が沸き起こり、そして静粛になりました。  司会者が授与式を進行します。 「まず個人戦優勝者ハーラルト、前へ!」 「はいっ!」  ハーラルトは返事をすると私の前に来ました。  ハーラルトは緊張した顔で私を見つめてくれます。 「今までたくさんの鍛錬を積み重ねてきたことでしょう。素晴らしい剣技でした」 「ありがとうございます!」 「おめでとうございます」  私は優勝旗と盾を渡しました。  受け取ってハーラルトは深々と一礼しました。 「次、団体戦優勝チーム、前へ!」 「はいっ!」  次は団体戦優勝チームです。  リオとルカを含めた七名が私の前に整列しました。 「団体戦では息を飲むような戦闘を見せてくれてありがとうございます。おめでとうございます」  私は盾を七名に渡していきます。  そして優勝旗はチームリーダーであるリオへ。 「ありがとうございます!」 「おめでとうございます」  最後にまた祝福の言葉をかけると、七名が揃って一礼しました。  こうして優勝者たちに優勝旗と盾を授与すれば、次は最優秀賞の選定です。これは王妃である私が今回の出場者の中から一人を選ばなければなりません。  もちろん私はすでに選んで伝えていました。  司会者が発表してくれます。 「それでは最優秀賞の発表です。最優秀賞はレベッカ!」 「おおおっ、レベッカ先輩だ!!」 「レベッカ先輩おめでとうございますー!!」  観覧席から祝福の声があがりました。  レベッカはたくさんの学生から慕われているようですね。 「レベッカ、壇上へ!!」 「は、はい……」  レベッカが驚愕したまま壇上にあがってきました。  でもどうしたことでしょうね、受賞者として私の前に立ったというのに困惑している様子です。舞台で戦っている時は利発な印象を受けたのですが、……ああ、そういうことですか。  時折レベッカは私の後ろをちらりと見ていたのです。そう、私の後ろに控えているコレットを。その意味に少しだけ切なくなりました。

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