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Episode3・うららかな昼下がり、北離宮の主人は25

「あなた、浮かない顔をしていますね」 「お、王妃様っ……」  レベッカがハッとしたように顔をあげました。  突然私が話しかけたので驚かせてしまったのです。本来はあり得ないことですから。  レベッカは焦った様子で取り繕います。 「そ、そんなことはありませんっ。緊張してしまって」 「ではもっと誇らしい顔を見せてください。あなたは私に最優秀賞に選ばれたのですよ。それとも私が選んだことは迷惑でしたか?」 「も、申し訳ありませんっ……。お許しくださいっ……!」  レベッカが青褪めてしまいました。  可哀想に声が震えてしまっています。私に不快な思いをさせたと思ったようですね。  でもそうですね、少し不快かもしれません。だってレベッカが受賞を困惑している理由なんて一つじゃないですか。 「どうやら、あなたは私が偏った気持ちで最優秀賞を選ぶような、そんな公正性に欠ける人間だと思っているようですね」 「と、とんでもありませんっ! 決してそのようなことはっ。……ただ、最優秀賞を授かるには優勝しなければいけませんでした!」  レベッカが必死な口調でお話ししてくれました。  ごめんなさい。怯えさせてしまいましたね。  ようやく胸の内を吐露してくれて、私は穏やかに目を細めてレベッカを見つめます。 「あなたを責めたわけではないのです。許してくださいね」 「王妃さま……」 「あなたがそう考えるのも無理はないかもしれません。例年の最優秀賞は個人戦か団体戦の優勝者から選ばれていましたから。それにあなたはコレットの親戚です。それを気にしているのですね」 「…………」  やはり図星のようですね。  今回の大会でレベッカの成績は個人戦三位、団体戦は準優勝というものでした。例年なら最優秀賞候補から外れています。  ですが今回、私はレベッカを最優秀賞に選びました。  きっとレベッカはこれについて疑念を抱いてしまっているのですね。私の最側近女官コレットはレベッカの親戚なので贔屓したのではないかと。 「ならば教えてあげましょう。どうして私があなたを最優秀賞に選んだか。まずあなたの戦術と作戦行動の実行力です。あなたが見せてくれた高度な戦術は見事なものでした。私は戦術に関して素人なのでゼロスに教えてもらったのですよ」 「冥王様が私の戦術をっ」  レベッカが息を飲みました。  学生にとって冥王に戦術を褒められることはこの上なく名誉なことですからね。 「あともう一つ、私はあなたの指揮官としての力に魅せられました。あなたのチーム七名、最後まで誰一人欠けることはありませんでしたね。七名全員がそれぞれ得意とする力を出し切り、あなたの指揮下で最後まで戦い抜きました。それはあなたの指揮官としての力の賜物でしょう。あなたが見せてくれた指揮官としての統率力は優勝することと同等の価値があると思いました。だから最優秀賞に選んだのですよ。納得してくれましたか?」 「ぅっ、王妃さまっ……、ありがとうございますっ……」  レベッカの声が震えていました。  瞳には薄っすらと涙が浮かんでいる。煌めくそれは笑みをたたえたものでした。 「最優秀賞受賞、おめでとうございます」 「ありがとうございますっ……!」  レベッカは盾をしっかりと受け取ってくれました。  こうして授与式が終わり、そのまま閉会式へと移行します。  舞台にハーラルト、リオとルカのチーム、レベッカが整列し、観覧席の学生たちも全員が起立します。  私は舞台の壇上から閉会式を見守り、ゼロスとクロードは特別観覧席から見守っていました。  閉会式は厳粛に進んで魔力闘技会は無事に閉幕するかと思われた、その時。  ――――ドガアアアアアアアアアアアン!!!!  闘技場の外で大きな爆発が起きました。  会場全体を揺るがすほどの大きな爆発。突然のそれに会場全体がパニックに陥りました。 「ブレイラ様、大丈夫ですか!?」 「コレット、これはいったいっ……」  すぐにコレットが私を庇ってくれます。  騒然とするなか、一人の学生が闘技場に駆けこんできました。 「た、大変だ! 研究室で飼育していた召喚獣が突然凶暴化して暴れだした!!」 「し、召喚獣の暴走だ!!」 「逃げろっ、うわああ!! 闘技上に乱入してきたぞ!!」  ドガアアアアンッ!!!!  観覧席の出入口に巨大な召喚獣が現われました。  しかも一体だけではありません。複数の召喚獣が観覧席や舞台の入口など、いたるところに現われたのです。  その召喚獣の中にはセレモニーで可愛らしいダンスを見せてくれた召喚獣たちもいました。  学生たちが混乱しながらも応戦していますが、狂暴化した召喚獣の力に圧されています。  そして召喚獣たちが舞台にいた私や学生たちに向かってきました。  舞台で整列していた学生たちが防壁を発動しますが、召喚獣の体当たりで次々に防壁が突破されていく。でも  ――――ガキイイイイイン!! 「えっ……、檻……?」  光の檻。  襲われる寸前に光の檻が出現し、狂暴化した召喚獣たちが閉じ込められたのです。すべては一瞬でした。 「なにをしていた。召喚獣の制御が甘いぞ」  そして聞こえてきた声。闘技場の入口からゆっくり歩いてきた人物に頬が緩んでしまう。だって。 「イスラ……!」  そう、イスラでした。  イスラが狂暴化した召喚獣たちの動きを封じてくれたのです。  学生たちが息を飲む。 「勇者様だっ……」 「どうしてここにっ」 「狂暴化した召喚獣を一人で封じたのか」 「あれだけの召喚獣たちをっ」  現われた勇者イスラに学生たちは驚愕し、舞台にいた学生も女官も深々と礼をしました。  その中をイスラが私に向かってゆっくり歩いてきます。

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