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Episode3・うららかな昼下がり、北離宮の主人は26
「ブレイラ、怪我はないか?」
「大丈夫です。あなたが来てくれるなんて驚きました」
「政務が早く終わったんだ。ブレイラはまだこっちだろうと思って立ち寄った」
「そうでしたか。そのおかげで助かりました。ありがとうございます」
「当然だ。俺がいるのにブレイラを危険な目に遭わせるわけがないだろ」
イスラがキリッとした面差しで言いました。
この子はとても眉目秀麗な美形なので、こうしてキリッとした顔でかっこいいセリフを言われるとうっとりさせられるのですよ。
もちろん私だけではありません。イスラを見ていた学生たちはポ~と見惚れていて、瞳は熱を帯びてキラキラしている。まさに恋に落ちた瞳でした。
でもね、容姿もセリフも完璧ですけど、もう少し自分が勇者だということを考えてほしいですね。政務が早く終わったからって勇者があっさり立ち寄るのはいかがなものかと思います。学生たちは喜んでくれていますが学長や理事たちは勇者登場に大慌てですよ。
しかしイスラが気にすることはありません。それよりも。
「ゼロス!!」
鋭い声をあげて特別観覧席にいるゼロスをギロリッと見ました。
ゼロスはクロードを小脇に抱えておそるおそる舞台のイスラを見ます。
「あ、兄上……。来ちゃったの?」
青褪めているゼロス。
小脇に抱えられたクロードは「ブレイラ~! イスラにーさま~!」と手を振っています。どうやらクロードはゼロスに守ってもらっていたようですね。
私は二人の無事な姿にほっと安堵しましたが、イスラはゼロスを鋭く睨んだままです。
「お前がいながら何をしている」
「それは……」
「相手が召喚獣だからと甘く考えたんだろう」
「そんなことは……」
そっと目を逸らすゼロス。……そんなことはあるのですね。
あの子は動物や召喚獣が大好きな子ですから。
ゼロスは観念したのか、クロードを小脇に抱えたままひらりと跳躍します。身軽に舞台に着地しました。
「兄上、政務お疲れさま!」
「なにがお疲れさまだ。俺に余計な手間をかけさせるな」
イスラが冷ややかに言い放ちました。
でもそれには私の方がハッとしてしまう。
「ごめんなさい、イスラ……。私が戦えないばかりに余計な手間を」
「違うそうじゃないっ。ぜんぜん違うっ、手間じゃない! ブレイラはいいんだっ。これは俺の役目だ!」
「イスラ、なんて嬉しいことをっ……」
必死で言ってくれたイスラにほっと安堵しました。
一番手間をかけているのは戦えない私ですからね。
しかしそれにはゼロスも安心したようで。
「手間じゃないんだって。よかった~」
「お前のことじゃないっ」
イスラがすかさず言い返しました。
狂暴化した召喚獣が暴れだした時はどうなるかと思いましたが、こうしてイスラとゼロスが揃うと頼もしいですね。もちろんクロードもですよ。
「それにしても、これはいったいどういうことでしょうか」
私は闘技場内を見回しました。
そこには檻に閉じ込められた召喚獣たちがいます。今も檻の中で激しく暴れまわっていました。
その光景に困惑してしまいます。だってセレモニーで見た召喚獣は落ち着いていた様子で、今こうして狂暴化している召喚獣たちとは結びつきません。でもここで暴れている召喚獣たちはたしかに学校でお世話しているものたちのようです。
疑問はゼロスも同じようで、檻のなかで暴れている召喚獣に心配そうに話しかけます。
「そんなに荒ぶってどうしたの? なにかあった?」
「ガルルルルルッ、ガアアアアアアアッ!!」
ガシャン! ガシャン!
召喚獣が巨体を檻に体当たりさせて威嚇してきます。
「声が届いてないみたいだ。かわいそうに、正気を失ってる」
ゼロスは自分が使役していない召喚獣とも仲良くなれるのですが、声が届かずにしょんぼりしてしまう。
「ゼロス、落ち込まないでください」
ガシャンガシャンガシャン! ガシャンガシャンガシャン!
「ガアアアアアアアアッ!!」
「え、なんて?」
ゼロスが私に耳を傾けました。
ゼロスを慰めたかったのですが、近くで召喚獣が暴れているので聞こえなかったようです。
仕方ないのでもう一度。
「だから、落ち込まないで」
ガシャンガシャンガシャン! ガシャンガシャンガシャン!
「ガアアアアアアアアッ!!!!」
「え、ブレイラどうしたの?」
またゼロスが首を傾げて聞き返してくれるので、だからもう一度……。
「落ち込まな」
ガシャンガシャンガシャン! ガシャンガシャンガシャン!
「ガアアアアアアアアッ!!!!!!」
「もう~っ、なんなんですかっ!」
恨みがましく召喚獣を見てしまう。
でも召喚獣は檻の中でぐるぐるしたり威嚇してきたり。
「ちょっとは静かにしなさい! お話しできないじゃないですか!」
「ガアアアアアア!!」
「あ、なにも聞いてませんね。静かにしなさいっ」
ビシッと言い返してやりましたが。
「ガオオオオオオオオオオオッ!!」
「グガアアアアアアアアアアッ!!
「グルルッ、ガアアアアアアアアッ!!」
ガシャンガシャンガシャン! ガシャンガシャンガシャン!
ガシャンガシャンガシャン! ガシャンガシャンガシャン!
ガシャンガシャンガシャン! ガシャンガシャンガシャン!
「わあああっ、なんなんですかっ! なにか文句でもあるんですか!」
闘技場にいた召喚獣たちが私に文句を言うように威嚇してきました。これ絶対に私のことバカにしてますよね!
「ちょっとは静かにしなさいと言っているだけなのにっ……」
でも迫力に負けて一歩下がってしまう。
するとそんな私の視界にイスラの背中。イスラが私の前に立ったのです。
「イスラ?」
「ブレイラは下がってろ」
イスラは私に優しい口調でそう言ってくれたけど、次の瞬間。
「――――うるさいぞ」
ブワリッ……!
イスラの闘気が闘技場全体に広がりました。
衝撃波すら感じさせる凄まじい闘気。
その闘気に召喚獣たちが竦みあがりました。なかにはガクガク震えている召喚獣なんかもいたりして、……これって完全に制圧ですよね。
でもイスラは優しい顔で私に振り向きます。
「ブレイラ、もういいぞ。ちゃんと聞こえる。さあ話せ」
「……さあ話せと言われましても……」
気持ちは嬉しいですが、召喚獣たちがとてもガクガクしてますよ……。
でもまあ興奮していた召喚獣たちが落ち着いたようで良かったです。
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