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Episode3・うららかな昼下がり、北離宮の主人は29
「ゼロス、今回の件はよろしくお願いしますね。がんばってください」
「任せて。クロードは応援の担当さんよろしく」
「わかりました」
クロードも真剣な顔で頷きます。
生真面目なクロードは応援の担当も真面目に引き受けてくれます。
「ところでブレイラ、リオとルカはどんな感じだった? なにしゃべったの?」
ゼロスが興味津々に聞いてきました。
リオとルカは冥界に初めて迎え入れた民ですからね。ゼロスが気になる気持ち分かりますよ。
でもゼロスの期待には応えられなかったかもしれません。
「残念ながらさっきの歓談は形式的なものですから、私は受賞のお祝いを伝えただけなんです。だからリオやルカや他の受賞者たちとも深いお話しは出来なかったんですよ。それに二人が冥界の民であることは伏せていますから……」
「そっか、そうだよね」
ゼロスは少し残念そうにしながらも納得してくれます。
私たちが残念なように、きっとリオとルカも残念な気持ちでいることでしょう。歓談中は他の受賞者と同じように振る舞っていましたが、それでも私が迎賓室に入室すると一瞬だけ瞳を輝かせてくれました。その瞳の輝きが二人の気持ちなのです。
今回は諦めるしかありませんね。こればかりは私が王妃でゼロスが冥王である限り仕方ないことでした。
こうして私とゼロスは諦めようとしましたが。
「……五分だ。五分で戻ってこい」
イスラです。
その内容に私とゼロスは顔を見合わせ、期待を込めてイスラを見つめます。
「イスラ、もしかしてっ……!」
「五分だけなら、王妃と冥王がこの部屋からいなくなっても誤魔化してやれる」
「イスラ~!」
「兄上~!」
私は感激してイスラにぎゅ~っと抱きつきました。
イスラは私の背中に手を回しながらも、反対側を迷惑そうに見下ろしていました。
反対側からは感激したゼロスが「兄上、ありがとー!」と抱きついていたのです。
そんな私たちをクロードがうずうずしながら見ています。五歳なので状況はよく分かっていませんが仲間に入りたいのですね。
「クロードもどうぞ。イスラのここら辺が空いてますよ」
「にーさま~!」
クロードの顔がパァッと輝きます。すぐにイスラに駆け寄って抱きつきました。
ぎゅうぎゅう抱きつかれてイスラは複雑な顔をしていますが、それでも無理やり引き剥がさないところ大好きですよ。
「ブレイラ、そろそろ行ってこい。これ以上遅くなると行けなくなるぞ?」
「そうですね、急いで行ってきます。ゼロス、行きましょう」
「うん、ブレイラこっち来て」
「はい」
私とゼロスはイスラから離れて手を取り合います。
今頃リオとルカは学生寮にいるはずなのでゼロスの転移魔法で移動するのです。
でもそんな私とゼロスにクロードが羨ましそう。
「ブレイラいくんですか? わたしもいきます」
クロードも私たちのところへ来ようとしましたが、ガシリッ。
背後からイスラに首根っこを掴まれて阻止されてしまう。
「お前は俺とここで留守番だ」
「ええっ、わたしだけ!?」
「俺もいるだろ」
「そうですけど〜……」
クロードは不満そうに唇を尖らせました。
クロードは私が行くところはどこでもついて来たがるのです。ましてやゼロスも一緒なら行く気満々です。でも残念ながら今回は無理なのですよ。
「ごめんなさい、クロード。また今度一緒にでかけましょうね」
「我慢しろ」
「……はい」
イスラはクロードの額を軽く小突くと、私とゼロスを振り返ります。
「行ってきていいぞ。ゼロス、見つかるなよ?」
「まかせてよ」
ゼロスは得意げに答えると魔力を高めます。
足元に転移魔法陣が出現し、私とゼロスは学生寮に転移しました。
私とゼロスが転移で姿を現した場所は学生寮の……倉庫でした。
薄暗く埃っぽい倉庫にゼロスが申し訳なさそうに苦笑します。
「ごめんね、こんな場所で。誰もいない場所を探したらここだった」
「ふふふ、ここならたしかに誰も見られませんね」
使われていないテーブルや椅子が積みあがって、そこには薄っすらと埃が乗っている。誰も倉庫に入っていない証拠です。
「さあ、さっそく行きましょう。長居はできません」
「そうだね。ブレイラ、僕から離れないでね?」
「わかりました。お願いします」
私はゼロスに先導されて倉庫から出ました。
足音を立てないように慎重に廊下を歩きます。
歩いていると寮内のあちらこちらから学生の話し声や笑い声が聞こえます。そのたびに私はこちらに来るのではないかとドキドキしてしまいますが、ゼロスは平然と前を歩いていました。さすが冥王ですね、接近する気配か動かない気配かを瞬時に見極めているのでしょう。
ふとゼロスが立ち止まります。
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