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Episode3・うららかな昼下がり、北離宮の主人は32
「ゼロス」
「なに?」
「私はね、リオとルカに聞きたいことがたくさんあったんです。学校のことや友だちのこと、授業のことや寮暮らしのこと。とにかくたくさん聞きたいことがあったんです」
「そうだね。僕もどんな訓練してるのかとか、どこまで強くなったのかとか、二人の行きたいところやしたいこと、いっぱい聞きたいことがあったよ」
「ふふふ、一緒ですね」
そう、私とゼロスにとってリオとルカは大切な子どもたち。
公式の視察で会うことができたけれど、どうしても私情で会いたいという気持ちがあったのです。
二人からたくさんお話しを聞いて、元気で暮らしていることを確かめたかったから。
でもね。
「ゼロス、そろそろ帰りましょうか」
「会わなくていいの?」
「はい。私がリオとルカに聞きたかったことの答えがここにありました」
そう、この扉の向こうから聞こえてくる賑やかな声が答えです。
リオとルカは元気に学校生活を送っているのですね。
嬉しいことを一緒にお祝いできる友人がいる。全力で戦えるほどの好敵手がいる。今もこうして友人たちと笑顔で食事を囲っている。その事実だけで充分でした。
直接会えないことは少し寂しいけれど、留学を終えればきっと会いに来てくれます。
それはゼロスも同じだったようでニコリッと笑顔を浮かべます。
「そうだね、僕もそう思う。帰ろうか。遅くなるとクロードに文句言われそう」
「お留守番が苦手な子ですからね」
「気持ちは分からないでもないけど」
「ふふふ、そうでした。あなたもどこでもついて来たがりましたから」
「そりゃそうでしょ。今もどこでも行くよ?」
ゼロスはおどけて言うと私に手を差し出しました。
その手に手を重ねると足元にゼロスの転移魔法陣が発動します。
私とゼロスは最後に扉を見つめると、イスラとクロードのいる広間に戻るのでした。
こうして私とゼロスとクロードの士官学校視察が無事に終わったのでした。
視察から三ヶ月後。
私は北離宮の執務室で執務をしていました。
目の前のソファにはクロードがちょこんと座って絵本を読んでいます。
ほかの家族がいる本殿では文字がたくさんの難しい書物を読んでいるクロードですが、私しかいない北離宮では絵本を読んでいることが多いのです。感動系の絵本を読みながらよく涙ぐんでいます。
でも今日は少しだけつまらなさそうな顔をしていますね。別のことが気になって絵本に集中できないようです。
「どうしました、そんな顔して。絵本を読む顔ではありませんね」
「えっ」
クロードがハッとして両手でほっぺを包みました。
可愛い仕草に小さく笑ってしまいます。
あなたが絵本に集中できない理由は分かっていますよ。
「ふふふ、そんなに寂しがらないでください。父上もイスラもゼロスももうすぐ帰ってきますよ」
「べ、べつにさびしいわけじゃっ……」
クロードが慌てて言い返してきましたが目を泳がせています。
そんな分かりやすい反応に私は目を細めました。
今日は朝からハウストとイスラとゼロスは政務で精霊界へ行っているのです。
それというのも初代時代で四界の真実を知ってから、四界の王は定期的に各世界の異変を情報交換する報告会を開いていました。
現在、星の核エネルギーの暴発は祈り石になったレオノーラによって抑えられています。もしそれに異変が確認されたなら、世界の枠組みを超えて対処しなければならないことなのです。
というわけで、今回の定例会議は精霊界で開かれているので、魔王ハウストと勇者イスラと冥王ゼロスは朝から精霊界へ行っていました。
「失礼します。王妃様、魔王様とイスラ様とゼロス様がお帰りになりました」
「ありがとうございます。私とクロードも出迎えに向かいます」
私が立ち上がるとソファにいたクロードもパッと顔を輝かせます。私のところにぴゅーっと駆け寄ってきました。
「ちちうえとにーさまたち、かえってきたんですね!」
「そうですよ、行きましょう」
そう言って手を差しだすとクロードがぎゅっと握ってくれます。
二人で手を繋いで北離宮の長い廊下や回廊を歩いて正門をくぐり、本殿の広間に向かって歩きました。
士官が私とクロードが来たことを告げて扉を開けてくれます。
広間にはハウストとイスラとゼロスがいました。
「ハウスト、イスラ、ゼロス、おかえりなさい。お疲れさまでした」
「ちちうえ、イスラにーさま、おかえりなさい!」
私とクロードが挨拶のお辞儀をしました。
ハウストが立ち上がって私のところに来てくれます。彼は私の手を取ると指先に口付けてくれました。
「ただいま、ブレイラ。俺の留守中に変わりはなかったか?」
「はい、つつがなく。あなたやイスラやゼロスは少しお疲れのようですね」
精霊界から帰ってきた三人は少し張り詰めた空気をまとっているようでした。精霊界での定例会議では重要なことが話し合われたのでしょう。
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