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仕事着

そんな…。 ここにいるのは奴隷達だけではない。 広い部屋の半分は会議をする場所のようだが、一角には机があり、秘書官らしき人も数人いる。 それどころか、ここはエントランス。 頻繁に他部署からの出入りもある、公の場だ。 「こ、ここは人が多うございます。あ、あの、服を着替えて参ります…。」 「ここで、脱ぎなさい。」 「あ、う…。」 ピシャリと、願いを掃き捨てるように言われて、歯を食いしばってボタンに手を掛ける。 上着とベストを脱ぐ。 だが、そこから先が進まない。 「さ、宰相、様…、あ、ここでは、その、あの…。は、恥ずかしうございます。」 ニヤニヤとした笑みを広げた宰相が、更に目を細めた。 「貴方は戸惑う顔も良いのう。ですが、わしは忙しいのだ、そんな事くらいサッサとやりなさい。出来ないのならば、奴隷達に着替えさせるだけです。」 「…あ、う………、、は、はい。」 シャツのボタンを早く外さなければならない。 口答えをしてはいけない。 ただ、服を脱ぐだけ。 分かってはいる。 だが、日も高ければ、仕事をしている人もいる。 こんな所で服を脱ぐなんて…。 シャツのボタンを外し、腕を抜く。 「下衣も脱ぐのです。」 「…は、はい…。」 ズボンを足元に落とすと、奴隷がそれをサッと持ち去った。 「今服を用意しますからのう。さあ、下着も脱いでしまいなさい。」 「し、下着まで、そんな…、で、出来ません、こ、こんな所で…。」 トントン! 「ああっ、そんな、嫌だ、やめて、こんな事、いや、ああっ!」 下着を上下とも脱がされ、手を背中で押さえられて、体を隠すものは無くなった。 公共の場で、自分1人だけが一糸纏わぬ姿を曝している。 部屋に入って来た者が何事かとチラリチラリと見てゆくのが恥ずかしくて、涙が滲む。 「そんな風に立っているだけなら、自慰でもしてわしを楽しませよ。」 「そんな、お、お許しを、こんな、衆前でこのような卑猥な…。」 「それとも腹の中が綺麗かどうか、確認しようか。」 「あ、そ、それは、それだけは…、、う、うう…、何故、こんな…。」 「何故ですと?今まで戦争をしていた国同士が親密な関係を築こうというのだ。 それなりの障害があるのは当然の事。 それを貴方は緩和し、取り払うのが役目。 いつまでも貴方の国の服を着ていては、好意を感じられぬからと、わしは服を着替えるように言ったのです。早速服が来たようだ、着替えなさい。」 「……、あ、ありがとう、ございます…。」 着替えた服は軽くて薄い繊細な生地で、手触りも良く、丈の長いローブのような服だった。 前後の中心には三角に垂れがあり大きな宝石と豪華な刺繍が施されていて、一目で高価だと分かる。 だが、ウエストでベルトを巻かれた他は、脇には生地を留めるものは何もなく、スウスウと風が通る。 下着も下履きも付けていない。 「おお、似合いますなあ、流石は王家の血筋です。」 「こ、このような服は、私には…。」 「私からの贈り物に、何か問題が?」 「い、いえ…。」 垂れの先端に付いた大きな宝石が、太い指に転がされて揺れる。 胸の間にあるそれが生地を押さえる為、薄い生地を押し上げた腫れ気味の乳首が、柔らかな生地に陰影を描いていた。 「さあ、私の執務室でお茶を飲みながら貴方の仕事の説明をしよう。」 仰々しい程に装飾された扉をくぐる。 豪華な執務室の明るい大きな窓辺にあるソファで、また、甘い匂いのお茶を飲む。 嫌な予感しかしない。 「デスクはそちらだ。書類の仕分けをしなさい。なあに、簡単な仕事だよ。」 デスクとして示された先にあるのは、側にある金銀の装飾が着いた豪華なテーブル。 天板に華奢な四本の脚が付いただけの机だ。 他の机のように幕板が無い為、まるで1人用のダイニングテーブルのようにも見える。 部屋を見渡す。 部屋の奥に宰相の豪奢な机、右の明るい窓辺に寛ぐ為のソファ、その隣がスウェインのデスクだ。 左側には書斎とバーカウンターやテーブルがあり、中央には来客用の広いソファと低く大きな丸テーブル。 真上にはキラキラとした大きなシャンデリアまである。 「それと、来客時にはお茶を入れ、もてなしを。それが貴方の国の為にもなる。お分かりかな?他国の要人もここにはお見えになるのだ、其方はそこで顔を売り、祖国の為に働くという訳だ。」 宰相がそれがどれだけ有意義で素晴らしいものかを滔々と語るのを、頬が火照るのを感じながら聞いた。 「さあ、仕事に戻りましょう。……、おや、お若い事だ。」 案の定、ペニスが勃ち上がり、薄い滑らかな生地を持ち上げていた。 「こ、これは…、あの…。」 「良いのですよ。わしとの親密な時間を思い出したのでしょう。ですが、それとこれとは別です。さあ、仕事をなさい。」 部屋の外に声が掛けられると、部屋に文官らしき男が書類を持って入って来て、ニタリと笑った。 「この男が貴方に仕事をお教えする事になります。よく言いつけを守り、精進なさい。」 「はい、よ、よろしくお願い申し上げます。」 書類に受付の印を押し、教えられるまま仕分けて行く。 次々と運び込まれる書類。 そして、仕分けた書類をそれぞれ担当の者が持ち出して行くから、限られた者だけではあるが執務室の出入りは少なくはない。 執務室に入っては出て行く者達が、こちらを見ては怨嗟の眼差しを投げて行く。 「彼らはね、恨みがあるのですよ。国の人気者である男を酷く負傷させたのだからね、仕方がない。貴方はそれを受け止め、少しでも軽くする事が役目だ。」 「…はい。」 ……分かっている。 私は、憎き敵国の人間…。 一通り仕分けの方法を聞いて、書類を仕分けていると、手渡す書類が何かの拍子に散らばってしまった。 「大切な書類を、なんて事だ。」 さも大事のように言って、男がガタリと立ち上がった。 「も、申し訳ありません。す、すぐに…。」 「けしからん!国民の声を無下に扱うとは!罰を与えなさい!!」 ニタリと、男が笑った。

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