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ただ慰めたかっただけなのに①
「っ、ん……くぅ……、ふぅ……っあ……れお……、っ……礼央……っ、」
自らの右手にはすっかり手に馴染んだシャーペン、その先をなぞるのは、近い内に行われる考査の範囲を所狭しと記入したノートだ。只管紙の束を捲り、頭を抱えながら受けた授業に対しての朧気な記憶を引っ張り出し、其れを書き記していた。つい先程まで。
考査が近く、勉学に励まなければならないのは自分だけではなく、勿論、恋人も自分と同じように勉学に励んでいた。彼は普段はしつこいくらいに自分に迫ってくるが、さすがに空気を読んだのか危機を感じたのか、考査が終わるまでは勉強をしたいから会わない、と突然言い放ってきたのだ。
此方としては集中して勉強ができると思い、少しの寂しさを押し殺して提案を呑み込んだが、まさか追い込みをしている途中で彼のことを思い出し、集中できなくなるとは思わなかった。
自宅には誰もいないことが多く、今日も1人自室に籠り勉学に勤しんでいたが耐えられず、先程まで紙の束を捲っていた指を机の下に忍ばせていた。
恋人のものではないが、待ち侘びていた快楽を下腹部に与え、彼を想いながら自慰行為に耽る。
彼が普段行為をする時の様に、下腹部の其れを優しく握り、指先で割れ目を刺激するとぬるつく液体が纏わりついた。その液体をしつこく先に絡ませて、何度も擦り付けるように指を動かせば、次第にくちゅくちゅといやらしい水音が聞こえてきた。彼に嬲られ続けてきた身体は、自らの指の刺激ですら快楽を覚え、奥底からゾクゾクと湧き上がる甘い痺れに襲われる。
快楽で頭が回らなくなり、彼に言われた言葉が脳内で反芻され、抑えていた声が漏れ出してしまった。
「っ、あ……ぁ、ごめ、なさ……ッ、れお、きもち……っ、や、ァ……ッ、れお……、れおっ……」
震える右手でシャーペンとノートを仕舞い、席を立ち、ゆっくりと背後のベッドに横たわる。
下着を下ろし、脚から引き抜いて脇に放り投げた。自由になった下腹部と両脚を大きく拡げ、右手を股の間に滑り込ませ、秘孔に人差し指を添える。呼吸をするように規則的にうねる其れにゆっくり指を沈めようとすると、滑りがないため少し痛みを感じた。
痛みで少し冷静になった頭で今の自分の姿を想像すると、快楽に溺れた滑稽な姿で、まさに彼の言う淫乱そのものだった。
こんな姿、彼が見たらなんて言うのだろうか。
未だに主張し、我慢汁を垂らす其れを上下に扱きながら彼に嬲られるのを想像していると、いつも出し入れされている秘孔が疼き、手の中の其れは質量を増して熱を持ち始めた。快楽を求め、秘孔に宛てがっていた指を離し、先程まで扱いていた左手の人差し指で其処に触れた。
周りをゆっくり撫で、其処を緩くしたところで指を挿入し、中を味わうように動かせば、いつも彼のモノで擦られる前立腺を掠め、思わず腰が浮く。
何度も何度も指を動かして其処を刺激すれば、身体が疼き、脳が蕩けそうな程の快楽と自らの指で穴を弄り快楽を得ていることへの情けなさに涙が溢れた。
「っ、ぁ……れお、さみし……ぃ、れおッ……おちんぽほし……の……、れおのちんぽほしい……、ちんぽ……っ、ちんぽ……ッ♡がまん、できなぁ……むり、っ、むりなの……ッ♡ちんぽほしい……れお、れおっ……♡」
あまりにも自らが発した滑稽な台詞の数々と脳内を支配する彼との行為と、今どうしても欲しくてたまらない其れを求めて、思わず握り締めたのは携帯電話だった。
その場の勢いで、汚れていない指で画面を操作し、電話帳を開き、彼の名前を押し、そのまま電話を掛けてしまった。
呼出音が鳴り続けるうちに、自分が何故彼に電話を掛けているのかが分からなくなり、10秒も経ってないうちに終話ボタンを押したのだった。
「……、礼央……電話掛けてくるかしら……、!てか待って、アタシ掛かってきたらなんて言えばいいわけ!?やだ待って……」
誰に言う訳でもない独り言を呟き、すっかり萎えてしまった其れを眺め、未だに収まりきってない性欲をどうにか消化しようと、携帯を操作して手頃なオカズを探そうとしていた。
とりあえず見つけた動画をぼんやりと眺めていたが、特に自らの性的趣向に合ってる訳もなく、聞き流しながら性欲すらも萎えてきたところで、手を拭き下着を履き直し勉強を再開しようとした途端、電話が鳴った。
あまりにも突然過ぎて、電話の相手が誰かもろくに確認せず出ると、聞き馴染みのある声がしたのだった。
『……イリヤ、さっき電話してくれたよね、どうしたの?』
「……礼央!」
『ん?どうしたの……?』
「っ、えーっと……、べ、勉強捗ってる?」
突然の恋人からの電話に対し、咄嗟に出た当たり障りのない言葉で通話の目的を誤魔化して、相手の回答を待っていたら、とんでもない言葉が返ってきたのだった。
『……、捗ってないよ……』
「え……?」
『ねぇ……イリヤ、何で電話してきたの?……俺、ずっと我慢してたのに……、はぁ……』
「……礼央?どうしたの……」
『……電話、切らないで……、イリヤ……』
「え、何……?」
『……、イリヤ……』
「どうしたの、具合悪いの!?」
途切れ途切れに聴こえる電話越しのくぐもった声に、体調を崩していたのかと思い、つい声を上げてしまう。はぁと小さく溜息を零した彼の返答を待っていたら、更にとんでもない言葉が返ってきた。
『……イリヤ、えっちしたい……』
「はぁ!?」
『無理……俺ずっと我慢してたのに……イリヤのために……、イリヤの勉強邪魔しちゃいけないって思ったから……頑張ったのに……、電話掛けてこられたら無理……ほんとに……無理だから、家行っちゃダメ……?』
「ダメに決まってるでしょ!?何でそうなるの!意味わかんないわよ馬鹿!」
『じゃあなんで電話してきたの』
「っ……それは……、」
『なに?ただの用件伺い?』
「……、」
『……教えてよイリヤぁ』
「別に用件伺いでも何でもいいじゃない……、駄目なの?」
途中からの彼の揶揄うような声色に、思わず強く当たってしまったが、恐らく目的などはとうにバレているだろう。先程まで彼のことが欲しくてたまらなかったが、彼のこういうところに嫌気が差し、早く電話を切って欲しいと言わんばかりに冷たく返答をする。
「……アンタ勉強捗ってないなら早く戻ったらどうなのよ」
『電話掛けてきた張本人に言われたくないなぁ』
「何よ、間違い電話よ……悪かったわねほんとごめんなさい」
『何その態度』
「……、もういいじゃない、切るわよ」
『……なぁに、その態度……』
「何回言うのよそれ」
『ほんとは構って欲しかったんじゃないの?』
相変わらずの揶揄う様な彼の声色と、図星であるその発言に思わず息を詰める。悔しさに言葉が出ず、暫くの沈黙の後に呟くように彼の発言を否定した。
「……違うわよ、」
『そう?それか勉強教えて欲しかった?』
「……取ってる授業、ひとつしか被ってないじゃない」
『そーだねぇ、でも電話掛けてくる理由分かんなかったから』
「……もう切るわよ」
『切らないでよ、久しぶりにイリヤの声聞けたの嬉しいから、もうちょっとだけ切らないで』
「何なのよ……意味わかんない」
思わず深い溜息が漏れ、先程まで腰掛けていたベッドに身体を沈めた。少しばかり、彼の焦ったような声色を聞くのが楽しくてつい通話を終了する素振りを何度もしてしまう。
『ふふ、かわい……』
「何よほんと気持ち悪い!」
『えっ、そんなことないよ?俺気持ち悪いかな』
「ずっと気持ち悪いわよほんと、変態」
『イリヤ変態みたいな俺好きじゃん』
「ッうるさいわね馬鹿ほんと」
少しくらい勉強をサボってもバチは当たらないだろう、そう思い、ベッドの上をゴロゴロと寝返りを打ちながら彼と通話を楽しんでいた。久しぶりに聞く彼の声をオカズにちょっとだけ抜いても許されるかと思い、下腹部に左手を伸ばして触れようとした途端、彼が突然此方を見透かしたような発言をする。
『変態ついでにさ……イリヤのオナニーしてる声聞きたいな』
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