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エピローグ アスミ
三日三晩の監禁の後、集落に戻った俺たちを山狼族のみんなは受け入れてくれた。
もちろん全員が両手を上げて歓迎してくれたわけではない。
長老はもちろん俺の事をガン無視だし、シーナさんは俺に向かって悪態をつく。
でも時々俺を気遣うような場面もあって・・・何というか、前世と同じ感じ。シーナさんは俺よりも数倍立派なツンデレさんだ。
それでも、最近のシーナさんはミイを見ると表情が緩むし、前ほどケンショーさんに絡む事もなくなった。代わりにトシさんといる時間が増えているので喜ばしいと思っている。
シーアさんは相変わらずで、ヨシさんは山狼族の事を色々教えてくれる。俺の横にケンショーさんが居れば、トシさんも話しかけてくれるようになった。
そしてミイは犬科動物の精霊たちとも仲良くしている。なんと長老の精霊、グン(コヨーテ)とも!これはリューがそれだけみんなに崇拝されているからだろう。
じゃあ、ケンショーさんは?って話になるけど・・・あの人は性格上、人を押さえつけて従わせるのはイヤなんだと思う。個人の意見を尊重するタイプだからな。ノリも軽いし。
まぁ、そんな感じで山狼族としての生活は、思っていたよりも居心地がいい。
しばらく山狼族の集落で暮らした後、俺は一度街に帰り、父さんと母さんにケンショーさんとリューを紹介した。
父さんは魂が抜けたような顔をし、母さんは・・・山狼族に会えたって事よりも、何というか、シーアさんの同類的な喜びようだった。うん、察して欲しい。
それでも、しばらくは月に一度実家に戻る約束をし、祝福されながら家を出たんだ。
これでもう俺とミイは、ケンショーさんとリューの隣が帰る場所となった。
トワとルイにはあの三日三晩の監禁の後、ミイがリンクとベルと繋がり、ある程度の説明はしてあったんだけど・・・
その後、トワとルイにケンショーさんを会わせた事により、魔王様にもあいさつしないわけにはいかなくなってしまったんだ。
謁見ではなく顔合わせ程度なら会ってもいいと言うケンショーさんの要望が通り、少人数でのお茶会的な会見となった。山狼族はケンショーさんと俺、魔族側は魔王様と宰相的存在のシグ様、そしてルイとショウだ。
ケンショーさんもノリは軽いが長としては優秀で、魔王様に対しても臆する事なく渡り合った。
元々敵対はしていないし、お互いにそこまで要求する案件もなかったので揉める事もない。
魔族側からの要求は「魔族に攻撃等を仕掛けない事」「魔族と揉めた際はもちろん、万が一ドラゴン族や人族とも揉めるような事になっても報告する事」くらい。
更に魔王様は、こっちが条件を出す前に「魔族の国が山狼族に攻め入る事はない」し、「魔族の国が山を開拓する事はない」と約束をしてくださった。
なら、山狼族としても「山を荒らさない事」「山狼族が魔族に混じって暮らす選択をしても受け入れてくれる事」さえ守ってくれるのなら、他に要求はない。
元々、集落やツリーハウスには、魔族が侵入出来ないような魔法が代々の長によってかけられている。
それを破れるのは魔王様クラスの魔力の持ち主だけ。その魔王様が「山狼族に攻め入る事はない」と約束をしてくださったのだから、心配はないだろう。
正式ではないが、何となく友好条約を結んだ感じだ。
「だが、魔族の中にも山狼族に興味がある者はいるだろう。そこのアスミが論文を発表してからは、探しに行く奴らも多いと聞く。それは迷惑ではないのか?」
魔王様のおっしゃる通り、魔族に山狼族を差別する土壌はないが、伝説の存在としての認知度は高い。その山狼族が現代でも生存確認されたとなると、探してみたくなるのも分かる。
「オレたちは絶対に魔族と関わりたくないわけでもねぇ。確かに山狼族の中にはそういうヤツもいるが、魔族と交流したいってヤツもいるんだ。
だから場所を明記していないアスミの論文で、あの山を特定出来るような魔族になら山峡で会ってもいい。それだけ山狼族に興味があるんだろうからな」
ケンショーさんの話は続く。
「山峡辺りにはオレもよく行くし、本気でオレたちに会いたいのなら拒みはしねぇよ。それが山狼族に害をなすようなヤツらなら、オレが蹴散らすだけだ。
会った後に釘を刺すのも忘れねぇしな。
まぁ、集落には魔法で山狼族以外は入れないようにしてあるから心配はない。
それに、オレたちは山全体が住みかの山狼族だ。いざとなれば別の場所に移動するよ」
「そうか」
魔王様からはそれ以上の話もなく、平穏なまま会見は終わった。
余談だけど、魔王様は本当に超絶美形の完璧魔王だった。ASURA先生がこの人を魔王として書きたいが為に、この世界を創った気持ちが分かるくらいに。あー王妃なアスラ様にも会いたかったなぁ。
ルイは本当に安堵した表情で俺たちを見送ってくれた。その横にはショウがいて、前世と変わらぬ溺愛っぷりを見せつけている。幸せそうでなによりだよ!
「僕もいつか他の山狼族にも会いたいな」
うん、そのうちにトワとルイを集落の近くまで招待しよう。山峡から山を歩いてみるのも、ハイキングみたいで楽しいかもしれない。よし、集落の周りを探索して、ハイキングコースを吟味するぞ!
絶対にリュウセイとショウもついて来るだろうな。
それまでにシーナさんと仲良くなっておきたい。出来ればシーアさんと二人セットでトワとルイに紹介したいし。長老とも少しは歩み寄れたらいいな。うん、集落に帰ったら早速作戦開始だ!まずはミイをナンと遊ばせて、俺も自然にシーナさんの近くに行って・・・
そんな事思いながら俺はケンショーさんに引っ付いて、ミイとリューとともに瞬間移動で集落へと戻って来た・・・ってあれ?ここツリーハウスじゃん?!
「あ~魔王城にはやたらと同性のカップルが多かっただろ?しかもところ構わずイチャイチャしてやがる・・・あれにあてられて、オレもアスミちゃんとイチャイチャしたくなってな。アスミちゃんは天幕でヤルの嫌がるだろ?
だから・・・な?」
「『だから・・・な?』じゃねぇよっ!
俺はシーナさんと仲良くなる計画を立ててたんだよっ!長老とも歩み寄りてーの!集落に帰るつもりだったの!
ハイキングコースも探したかったのに!
だってまだ真昼間だよ?どうせ夜にはここに戻ってヤルんだろ?なら今は集落に帰って・・・あっ、あっ、やぁぁぁん・・・」
結局、真昼間からがっつりあんあん啼かされてしまった・・・
もちろんミイはリューと繋がりっぱなし。
その後で集落に戻ったけど、ヤッてきたのが丸わかりだったみたいで、シーナさんには仲良くなるどころかおもいっきり顔を背けられ、シーアさんには興奮され・・・しかも回復魔法をかけてもらっていても何となく精神的にダルいし、ハイキングコースを探すどころじゃなかったよ。
エロ狼のチャラおっさんのせいでなっ!!
・・・まぁ、結局はめちゃくちゃ幸せなんだけどさ。
「山狼族の長はツンデレ黒猫を掌中に収める」 終
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お読みいただき本当にありがとうございました。
本編は完結いたしましたが、番外編が数話続きます。もう少しお付き合いいただけたら幸いです。
ルコ
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