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〝このゲーム〟の事を知ったのは、偶然。 放課後、忘れ物を取りに教室へ戻った時聞いた。 『なぁ、最近杠葉と山田先生仲良すぎじゃね?』 『担任ってのはあるけどさ、何か2人で話してんのよく見かけるわ』 『まさかできてるんじゃない? って言ったり〜』 『わかんねぇぞ、杠葉結構そういう噂あんじゃん』 (はーうっざ) 僕は元々ゲイで、それをおかしいとは思ってない。 カミングアウトも特別してないんだけど、やっぱこういうのって雰囲気でわかるもんなんだろうか? 気がつけば、男なのに「女みたい」とか「気持ち悪い」とかって避けられてた。 友だちや親しい人だってできず、孤立してしまって…… そんな自分を周りから守ろうとした結果、自然と性格がひん曲げて今の僕になった。 (って、そりゃぁ誰だってこんなの言われ続けたら性格変わるわこの野郎が) ま、別にどうってことないけど。 『でもさ、〝杠葉〟って名字珍しいし可愛いし、性格は地雷だけど顔綺麗だよな』 『わかる、つい発音したくなるやつな。顔は正直その辺の女子よりやべぇ。もしかして身体の方もやべぇとか?』 『ちょっと!それ私らに失礼だよっ』 (あーぁ、馬鹿らし) 完全に入るタイミング見失ったじゃん、どうしてくれんの? 『あ、そうだいいこと思いついた。なぁ一ノ瀬!』 『ん?』 『お前、杠葉落としてみろよ!』 『……はぁ?』 (っ、) 突然聞こえてきた言葉に、ビクリと体が震えた。 『一ノ瀬こういうの百戦連勝じゃん!』 『おもしれーそれ!そう言えばお前この前の賭け負けてたよな?』 『じゃぁこれでそれチャラにしてあげようよっ!』 『な、おい卑怯だぞ!?』 どんどん どんどん、進んでいく会話。 ジクジク痛み出した心臓をキュゥっと服の上から握りしめる。 『期限は……そうだなぁ、大目に見て3ヶ月でどう?』 『いいね。3ヶ月で杠葉から〝好き〟って言わせろよ? 大丈夫だお前ならできる!』 『その顔と性格があれば簡単じゃない?』 もう、限界で。 あはははっ!!と楽しそうに話す声を背に、静かに走り去った。 (最っ悪……) 一ノ瀬は、僕が密かに想っていた人だ。 高校の入学式で出会って好きになって、それからずっと…2年生の今まで大事に想ってきた人。 一ノ瀬がノーマルだってことは知ってるし、だから僕も告白する事は考えてなくて。 こんなに捻くれてるけど、彼の事だけは純粋に好きだった。 なのにーー (……あいつ、断ってなかったな) 負けた賭け金がよっぽど大きかったのだろうか? これから僕を傷つけて遊ぶより、ずっと酷いわけ? (いや、別に傷つくわけなんてないんだけど) いいよ一ノ瀬。 お前がその気なら3ヶ月間僕に付き合ってもらおう。 それで途中で諦めて、さっさとあいつらのところに帰ってしまえばいいんだ。 性格地雷と言われてる僕が、どうせならボロ雑巾みたく使ってやるよ。 (まぁもしそれでも諦めないんなら、タイムリミットの日にこっちからバッサリ切り捨ててやろう) ーーちょうど、僕からしても〝都合のいい〟3ヶ月。 どれだけこの学校の事ぐちゃぐちゃにしても、もう僕には関係の無いことだし。 『……勝負だよ、一ノ瀬』 次の日。 校門で早速話しかけてきた一ノ瀬に、あぁゲームはスタートしたんだなと思った。

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