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恋人編1
放課後になると倫太郎と悠太は、どちらかの家で勉強する。今日は倫太郎の家だ。
倫太郎と悠太は英語の予習をしていた。
「先輩、ここなんですけど……」
悠太が質問してくる。倫太郎が答えようとすると、悠太が倫太郎の肩に頭を預けてきた。
「なあ、悠太」
「はい?」
「おまえ、俺と付き合い出してから、なんか甘えてこなくなったな」
「え……そうでしょうか?」
悠太はきょとんとしている。自覚はないようだ。
「前はベタベタくっついてきていたのに、最近はそういうことしないから」
「そういえば、そうですね。無意識に遠慮していたのかもしれません」
悠太は苦笑する。
「でも、今日はいいですよね?」
「ああ、いいぞ」
悠太は倫太郎の膝の上に乗ってきた。倫太郎は悠太の腰に腕を回す。悠太は倫太郎の頭に顔を乗せた。
(かわいすぎる……)
倫太郎は悠太の髪を撫でる。悠太はくすぐったそうにしていた。
「先輩、好きです」
「ああ、俺も好きだよ」
倫太郎は悠太の頬に軽くキスをした。悠太は照れくさそうな表情を浮かべている。
(俺と付き合って変わったな)
恋人になってから、悠太は頻繁に「好き」と言うようになった。「抱きたい」とだけ言っていたのが嘘のようだ。
(大人になったのかな?)
「先輩、好き……好きです……」
悠太は倫太郎を見つめて言った。
「俺も好きだよ」
倫太郎が答えると、悠太は顔をほころばせた。
(かわいい……)
倫太郎の心は満たされていった。
倫太郎と悠太は付き合ってようになってから、毎日いっしょに下校している。駅に着くと、悠太は倫太郎の袖を引っ張った。
「先輩、あの……お願いがあるんです」
「なんだ? 言ってみろ」
「手、つなぎたいです」
悠太は恥ずかしげに手を差し出してきた。倫太郎は悠太の手を握る。
「あの……これもいいんですが、俺は恋人つなぎしたいんです」
「恋人つなぎ?」
「……こういうの」
悠太はかさねていた手をほどき、倫太郎と指をからめた。
「こうすると、すごくドキドキします」
悠太は倫太郎のほうを見る。倫太郎はドキッとした。
(俺だって、すごくドキドキする)
倫太郎と悠太は電車に乗った。
「俺と付き合うまで、誰かとつきあったことはありますか?」
悠太が訊いてきた。
「あるわけないだろ」
「じゃあ、本当に俺が初めての相手なんですか? 女子ともないの?」
「当たり前だ」
「うれしい……」
(そんなことで喜べるなんて、純粋だな……)
「俺、倫太郎先輩の初めてになれて、本当によかったです」
悠太の笑顔を見て、倫太郎の鼓動が激しくなる。
「俺も……悠太の初めての相手になれて、よかった」
(やっぱり、俺には悠太しかいない)
「倫太郎先輩……」
悠太は倫太郎の頬に触れた。
(キス……される? 電車のなかなのに……まあ、いいか)
倫太郎は目を閉じた。悠太の唇が近づいてくる気配がしたが、その唇は倫太郎の頬をかすめるだけだった。
(あれ……?)
目を開けると、悠太はいたずらっぽく微笑んでいた。
「残念でした」
(悠太……)
悠太は倫太郎に抱きつく。
「キスしたら、きっと止まらなくなります……だから、我慢しました」
「我慢できたか。えらい、えらい」
倫太郎は悠太の頭を撫でた。
(そろそろ、キスより先のことがしたいな……)
付き合う前は、抱きたい、抱きたいと言っていたのに、悠太は倫太郎を抱こうとしない。
(大切にされてるのかな、俺)
そう思うとうれしいが、少し物足りない。
悠太はいつものように倫太郎の家にやってきた。ふたりで夕食を食べ、テレビを観て、ベッドに並んで座っている。
「先輩、もう寝ますか?」
「まだ眠くないな」
「俺もです」
悠太は倫太郎の手に自分の手を重ねた。
「先輩の手、大きいですね」
「そうか?」
「俺の手と全然ちがう」
悠太は倫太郎の手を握ったり、開いたりする。
「先輩の手、好き」
悠太は倫太郎の手の甲にくちづけする。
「おい……」
倫太郎は悠太の髪に触れようとしたが、その前に悠太に手首をつかまれた。
悠太は倫太郎の手を自分の口元へ持っていく。
「舐めてあげましょうか?」
「えっ……」
「冗談ですよ」
悠太はクスッと笑う。
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