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恋人編2
「先輩、困ってましたね」
「そりゃあ……」
悠太は倫太郎を抱きしめた。
「俺、先輩とこうしていられるの、幸せです」
「俺もだよ」
「先輩……」
悠太は腕に力を込める。
「……付き合うって、難しいな」
「悠太?」
「先輩のこと抱きたいって言ってたのが嘘みたいでしょ?」
「そうだな。おとなしくなったな」
倫太郎は悠太の背中をぽんぽんと叩いた。
「先輩を大切にしたいって考える、いい子の俺と、めちゃくちゃにしたいって考える、悪い子の俺がいるんですよ」
悠太は苦笑いを浮かべる。
「でもはっきり言えるのは、昔の俺は変態のガキだってこと」
「まだ16歳だから、仕方ないって」
「先輩だって17歳でしょ」
「俺はいいんだよ」
倫太郎の言葉に、悠太は顔をしかめた。
「先輩は大人だから、いいんですか?」
「うん。一歳差は大きいよ」
「ずるいですよね」
悠太は不機嫌そうな表情になる。
「悠太、怒ったのか?」
「怒ってませんよ」
悠太は体を離すと、倫太郎の膝に頭を乗せた。
(すねてんのかな……)
倫太郎は悠太の頭を撫でた。悠太はされるがままになっている。
(かわいい……)
倫太郎は悠太の髪を撫でたり、耳にかけたりした。
(もっと甘えていいのに)
そう思いながら髪をいじっていると、「もう、子ども扱いしないでくださいよ……」と悠太がつぶやく声が聞こえてきた。
「子ども扱いじゃないぞ。ただ、かわいいなって思っていただけだ」
「それ、同じ意味じゃ……」
「愛くるしいって意味だよ」
「むぅ……」
悠太はさらに不貞腐れたような顔をした。
(かわいい……)
かわいいと言っても、怒らないところがかわいいと思うのだが、本人は気づいていないようだ。
「先輩って、俺のこと好きすぎますよね」
「そうかもな」
「そんなこと言われたら、調子に乗りますから」
「乗ればいい」
「いいんですか?」
「いいよ」
「倫太郎先輩、大好きです」
悠太は倫太郎の胸に飛び込んだ。倫太郎は悠太をしっかり受け止めて抱きしめた。
「悠太。俺はちゃんと待ってるから」
「先輩?」
「俺の初めて、もらってくれるんだろ? 悠太に抱かれるのすっごく楽しみにしてる」
「先輩……」
悠太は安堵したような笑みを浮かべている。
「焦らずにいこうな。人生は長いんだから」
「それって、一生いっしょにいるってことですか?」
「そうだ」
「かっこよすぎるよ、先輩……簡単に言っちゃうなんて……」
悠太は倫太郎の頬に、頬をすり寄せた。
「俺は悠太よりひとつ年上だからな」
倫太郎は、悠太の頬を撫でた。
「悠太。またおまじないしようか?」
「え、365日の?」
「そう。俺たちが抱き合う勇気が出るように。365日キスして勇気が出ないなら、またキスをする。どうだ?」
「はい!」
悠太がキラキラした笑顔を見せた。
その顔は、幼い頃と何も変わっていなかった。
「倫太郎先輩……いや、りんちゃんって言えばいいのかな」
「倫太郎でいいよ」
悠太は、まっすぐ倫太郎を見つめる。
「倫太郎。俺は勇気が欲しい」
「うん」
「あなたとキスしたい。毎日キスして、勇気のある男に変身したい」
(悠太、覚えていたんだ……)
勇気が出るおまじないは、キスする前に呪文を唱える。
倫太郎は悠太と指をからめた。
「悠太。あなたの願い、叶えてあげます。キスをしましょう」
倫太郎も呪文を口にした。
何もわからずおまじないを信じていた、あの頃と同じように。
恋が生まれるとわからなかった、あの頃と同じように。
「俺とキスしよう、倫太郎」
「……はい。毎日、毎日キスをしましょう」
悠太が倫太郎の顎に手を添える。ふたりは唇をかさねた。
365日後に愛が生まれる日を夢見て。
【恋人編おわり】
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