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第2話

 星影雅楽の声が好きだ。  歌声も、俺と居る時にだけ喋る少し高め声音も――性的な興奮を味わっている、ヨがる喘ぎ声も全部。好きで、好きで堪らない。……だから俺は、他人に雅楽の声を聞かせない為に歌声以外を人前で発することを禁止させた。 「ふぅ……。お客さん、サプライズの新曲、喜んでくれて良かったね」  プロデューサーの意向により、生放送の音楽番組にて順番変更の出番終了後、楽屋に入った雅楽が楽しそうに談笑を始める。無論、相手は俺しかいない。 「紫月くんのドラマ初主演の曲だから、司会の人も気合い入れて話振ってくれて。僕も隣に居て、この人分かってくれてるなぁって感激しちゃったよ。特にサビの部分! クールな探偵って役柄に合わせたダンスに注目してくれた時は……紫月くん?」  喜びに浸かる声調から一変、不安げな表情が舞い込む。  珍しく雅楽の饒舌な口調が止まったのは俺がむすっとしていたからだろう。まるで自分のことのようにはしゃぐ雅楽も可愛いが、酷く気に入らない点がある。確かに、あの司会者には今回の見所はほぼ間違いなく伝わり、それを通じて視聴者にも良い宣伝になったと思う。が、重要なのはそこではない。 「……えっと、紫月くん? 僕、何か変な事言っちゃったかな? あ、それとも……本当は歌詞、ちょっと間違えっちゃたこと怒って」  首を横に振るう。そんなことは大したことではない。間違えて一瞬だけ青褪めていたのも知っているが、他に誰も気付いている様子は無くカメラも別を映していたので画面の先に居る人間も知る術はない。……もっと、別の。 「……雅楽。前の出演者のこと、ずっと見てた」  怒りを抑えるように低く発する。  順番に入れ替わりがあったことにより、俺たち以外にも変更を余儀なくされたらしい。生放放送にはトラブルが付きもの、そう誰かは言うがピンポイントで雅楽の興味を引く者を割り当てないで欲しいものだ。 「え。あ、う……うん。実は最近ずっと聞き入っているバンドの人たちだったから。あ! でも、安心して。声を掛けるとかは勿論してないし、向こうも僕に気付くことさえ」 「雅楽、そいつらのこと――性的に好きなの?」 「……え?」  意外な質問、とでも例えるように雅楽の顔は疑問符を浮かべたものになっている。  おかしい、怪しい……俺は雅楽以外、どうでもいいのに。雅楽自身そうではないということは――雅楽に俺がどれだけ好きなのかを叩きこませないと。 「え。えっ? し、紫月くん……? どうして、そんな怖い顔でこっちに……ひゃっ!」  雅楽の小さき背中が壁、鏡の前で止まる。台に押し倒した勢いで軽く悲鳴を上がるが、周囲はどうせ気付かない。……どうして逃げるのか、いつもなら怯えはしても可愛くて。本気で嫌がることなんてなかったのに、雅楽にとって俺の存在は。 「雅楽は……。雅楽は、俺だけを見てればいい。その碧眼の瞳も、心身も。それに可愛い声も俺だけの為に……」 「ちょ、ちょっと待っ……ん!」  深いキスを落とす。逃げ惑う雅楽の舌を追い掛けるようにして、互いの息が限界になるまで情熱的に絡める。俺がどれだけ雅楽のことを好きなのか、届くように……。 「雅楽、雅楽、雅楽……!」 「はぁ、はぁ……。し、づきくん……なん、で」  何で、どうして、と。雅楽はそればかりを繰り返す。そんなこと、問わなくて分かっているはずなのに。  ――今日、何名。何十、何百人のヒトが雅楽の歌声に感銘を受けたのだろう。  幼少の頃から訥弁(とつべん)気味だった雅楽を、芸能界に誘ったのは他でもない俺だ。自分に少しでも自信を持って欲しい……そんなものは建前だが。雅楽の魅力を、雅楽だけが放つ輝きを俺は自慢したかった。俺の世界で一番の愛しき人は、こんなにも未知なる可能性を秘めているのだ、と。 「……雅楽、したい」 「っ……! こっ、ここで? 待って、まだ心の準備が……っ!」  口ではそう言いながらも、身体は正直そのもので衣装を脱がすと秘部を中心に下着が色濃く染みていた。先程の中途半端な愛撫が響いているのか……生放送にも関わらず、平気なフリをして歌唱やトーク中にずっと雅楽の下半身は疼いていたと思うと興奮する。して、自然と笑いが込み上げてきた。 「……雅楽、嘘はよくないよ。俺には雅楽のここ、すっごく物欲しいに見えるけど?」 「ひんっ……! 今日の紫月くん、いじわる……」 「……雅楽が誰かをまた、虜にするから――雅楽、いい?」  雅楽の頬が瞬く間に真紅に磨きが掛かり、弱々しくもこくりと頷く。初々しい……もう互いのハジメテは、とっくに卒業したというのに。  雅楽の反応は回数を重ねる度に敏感になっている。色白で、立派な成人男性なのに少々柔らかい肌……両手で口元を抑えても微かな息遣いがまた唆る。最早、わざとやっているのかと思うくらいには――前回との変化を見逃さなかった。 「……雅楽。もしかして、自分で弄ってる?」  と、指摘して身体がびくりと動いたのは言うまでもない。  デビューして二年。まだアイドルとして駆け出しではあるが、有難いことに仕事は増加傾向に辿る。しかし、お陰で雅楽との時間も減る一方であり……じっくりとしたものは、ご無沙汰で同居していないゆえに逢えない日だってあった。つまり。 「な、何で、分かって……」 「前より穴、大きくなってる。前戯なら指二本が限界だったのに、今は三本くらい簡単に……ほら」  実演して見せる。雅楽の挿入口を鏡へと向きを変えて、その勢いに釣られる如く本人の顔も向く。小さく漏れる驚きの声は、俺の好奇心と衝迫を強く掻き立てるもので。 「み、見ないで……! うぅ、恥ずかしい」  さらに赤くなる頬と比例するように、雅楽のナカも粘液が増して熱を帯びる。少し前はローションが必須アイテムだったのに今は必要のないくらい感度良好で……雅楽の好きな所も分かるようになった。 「雅楽、このまま最後までイくから」 「う、うん……一緒に、だよね?」  斯くして、その宣言は現実となる。また俺たちは互いに幼馴染以上の関係を解き放った。

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