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和樹Side 5
そんなの、行きたいに決まってるじゃないか。
「で、でも、いいの? 迷惑じゃない?」
「大丈夫だって。コイツ、基本寝たら滅多な事じゃ起きないし。起きたとしても送ってくの手伝ったって言えば問題ないだろ」
そう言うものなんだろうか?
「で? どうする?」
「……い、行きたいです。むしろ行かせてください!」
此処で行かなきゃ男が廃るとばかりに勢い込んで返事をすれば、「よっしゃ。決まりな」とアキラはククッと喉を鳴らして笑った。
慌てて荷物を纏めて肩に掛け、アキラと共に透を肩に凭れさせて歩き出す。
くにゃりと全身の力を抜いて凭れかかって来る透は予想以上にずしりと重い。
肩にかかる透の重さや、アルコールに混じって微かに香る煙草の匂い。耳に掛かる吐息が生々しく感じられて、妙に意識してしまい、顔が熱くなる。
ドクンドクンと脈打つ鼓動は煩いぐらいで、胸が苦しい。
もしかすると、これは夢かもしれない。
そう思うのに、触れ合った場所から伝わる体温は確かに現実で、これが夢だったら一生目覚めなくても構わないとさえ思えた。
「着いたぞ」
暫く歩いた所で立ち止まり、そう声をかけられてハッと我にかえる。目の前に聳え立つのはこの周辺では比較的新しめの三階建てのマンションだった。
学校にも駅にも近く、コンビニやスーパーにも歩いて行ける距離にある。立地的には最高の場所だ。
もしも一人暮らしをするのならこういう所に住んでみたいなぁと前々から思っていたけれど、実際に透が住んでいるとなると、また別の感慨がある。
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