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和樹SIDE 6
エントランスをくぐり、3階までエレベーターで上がって左に折れる。一番奥の部屋の前でアキラはようやく足を止めた。
「ん、と鍵は確か……」
ごそごそと透のポケットを漁り、慣れた手つきでキーケースを取り出すとガチャリとドアを開ける。
「さ、入れよ。ちょっと散らかってると思うけど、気にすんな」
まるで自分の家のように平然とした態度でそう促され、玄関で靴を脱いで恐る恐る部屋の中へと足を踏み入れた。
入った瞬間、いつも透が使っているであろう芳香剤の香りがして、どうしようもなく気分が高揚していく。
ドキドキしながら中を覗くと、玄関を入ってすぐ左側にキッチンがあり、その向かい側にトイレと浴室へ続いているであろう扉があった。恐らく1DKだと思われる部屋は黒一色で統一されていて、家具も少なく、あまり生活感を感じさせないシンプルな内装になっている。
「全然散らかってないじゃん……」
寝室のベッドに透を寝かせて、とりあえず一息つく。何処を見ても整然としていてゴミ一つ落ちていないし、床には塵ひとつ見当たらない。
結構ずぼらそうに見えるのに意外だった。
今日の酔っぱらった姿といい、自分の知らない透を知れたことが単純に嬉しい。
「あー、疲れた。お前が居てくれて助かったよ」
うーんと伸びをして、アキラが頭をクシャリと撫でる。バスケを始めたお陰か入学当初よりも20㎝以上も伸びたのに、それでもまだ見上げる位置にあるその顔に改めて体格の差を思い知らされて、なんだか少し悔しくなった。
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