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頭痛の種 3

そんな事を考えていると、食堂の入り口からパタパタと軽快な足取りが近づいてくるのが見えた。 「あ、こんな所に居たんだ。ねぇねぇ鷲野君達聞いて、ビックニュース!」 明るい茶色の髪をした女子生徒が、興奮気味に駆け寄って来たかと思うと、透達のテーブルに勢いよく両手を突いて身を乗り出してきた。 「おい、逢沢。食堂では騒ぐな」 「はぁい」 ごめんなさい。とばかりにペロリと舌を出し肩を竦めると徐に向かいの椅子を引きずって来て座った。 「あのね、須藤先生戻って来るんだって! さっき、赤ちゃん連れて校長室に入っていくの見掛けたの」  「へぇ、そっか、須藤先生戻って来るんだ」 「俺、あの先生超好きだったんだよ。美人だし。産休入るって聞いた時にはマジでビビったけど! そっかぁ、戻って来るのかぁ」 雪哉と和樹の目が大きく見開かれ、嬉しそうに頬を緩ませる。 (奏多が……戻って来る?) その名前を聞いた瞬間、胸がズキンと痛んで透は思わず顔をしかめた。 幸い、透の些細な変化に気付く者はおらずホッと胸を撫でおろしながら席を立つ。 「あれ? もう行っちゃうの? マッスーも見に行こうよ。須藤先生の赤ちゃん」 「悪いな、次の授業の準備をしないといけなくて。それに、会おうと思えばいつでも会えるから。お前らだけで行って来いよ」 動揺を悟られないように無理やり作った笑顔を生徒達に向ける。 こういう時のポーカーフェイスは得意な方だ。 和樹はまだ何か言いたげな様子だったが、軽く手を振りその場を後にすると、透は足早に食器を片付け食堂を後にした。

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