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頭痛の種 8

帰りのHRの後、職員室前の廊下で相川を見掛けた。正直言って、一番顔を合わせたくない相手だったが、無視するわけにもいかず軽く会釈をして通り過ぎようとした。だが、透が横を通り過ぎる直前、こちらに気付いた彼が透を呼び止めた。 「増田先生、今日の昼間、ウチの嫁と二人きりで話していたでしょう? 何を話していたんです?」 「……別に。復帰するのでよろしくと言われただけです」 わざとらしい問いかけに透は思わず顔をしかめる。 「それだけですか?」 「何が言いたいんでしょうか」 「いや、別に? うちの嫁が可愛いからってナンパとか止めてくださいよ ~?」 この夫婦は脳内に花畑でも出来ているのだろうか? 冗談にしてはあまり面白くない。 「……ご心配なく。《《貴方と違って》》、人のモノには手を出しませんので」 皮肉たっぷりに言い返し、彼の横を素通りする。 自分と彼女が付き合っていたと言うのはトップシークレットだった。浮気が発覚してから相談したのはアキラだけでそれ以外の人間には誰一人として洩らしていない。そのアキラにすら彼女の名前だけは伏せて話をしたと言うのに。 朝礼で結婚報告をし、みんなに祝福されている二人を自分がどんな思いで聞いていたのか、相川達が知らないわけがないだろう。 酷い男だ。いい加減だし、性格も悪い。人にマウントを取って何が楽しいのか理解できない。こんな男が未来ある子供達を指導していると思うと反吐が出そうだ。 自分のデスクに座り、帰り支度をしながら後1カ月で脳内花畑夫婦が揃う事を想像し、透は何度も溜息をついた。 何となく視線を感じて振り向くと、入り口付近でソワソワと落ち着かない様子の和樹がジッとこっちを見つめていた。

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