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頭痛の種 10

その遊園地は彼女が行きたがっていた場所で、いつか一緒に行こうと約束していた思い出が胸を過る。 結局、彼女との予定が合わず行けずじまいだったが今思うと、あの頃は既にあの男に寝取られていたのかもしれないと思うと胸に苦いものが込み上げてくる。 「んなもん他のヤツと行けよ。萩原とか、仲いいだろ?」 「俺はマッスーと行きたいんだよ! ……ダメ?」 思わず棘のある言い方をしてしまったのに、和樹は気にすることなくきゅるるんとした目で見つめてくる。 まるで捨てられた子犬のような表情をされてしまっては無下に断る事も出来ない。 「それに……。今、世界のスウィーツフェアやってるんだって」 更に追い打ちをかけるように言われて、透はピクッと僅かに肩を揺らした。 「へ、へぇ……スウィーツフェアか……。それなら猶更野郎二人で行くのは浮くんじゃないか?」 「そうかな? スウィーツ好きな男の人って結構いるけど。俺も甘いの好きだし、気になんないよ?」 そう言うものなんだろうか? 確かに巷ではスウィーツ男子と言うカテゴリーが一定数存在しているのは知っているが男同士で行って周囲から好奇の目で晒されるのは、ちょっと抵抗がある。 もっとも、和樹はそう言う事に無頓着そうではあるが。 「一生のお願い! ね、俺とデートしてよ!」  頼むよと拝みながら頭を下げられ透は戸惑った。 なぜそこまで自分に拘るのかわからない。  「あぁもう、わかったよ。行ってやるから頭を上げろって」 「マジ!? やった!」 「……けど、その代わり俺のレンタル料は高いぞ? 次の中間で主要5教科80点以上だ。それがクリア出来たら行ってやってもいい」 「ホント!? よっしゃ、俺頑張るから!」 てっきり、そんなの無理だよと言い出すかと思ったのに、予想外過ぎる反応がかえって来て透は戸惑った。 今まで、和樹はテストの点数が悪くて補習を受けていたから、てっきり今回も同じだろうと思っていたのだが、妙に自信ありげなのは何故だろう?  「……っ、5教科以外でも、一つでも赤点があったら今回の件は無しだからな?」 「わかってるよ、マッスー。じゃぁ、今日は勉強教えてくれてサンキュ!」 来た時と打って変わってスキップでもしそうな勢いで去って行く背中を見送りながら、透は椅子の背もたれにズルズルと腰を預けた。 「テストで生徒の気持ちを釣るのはマズいんじゃねぇの? 透センセ」 「……うっせ」 何処から会話を聞いていたのかは知らないが、ニヤニヤしながらアキラに言われて参ったな。と頭を掻く。

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