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遊園地に行こう 1

「あぁ、そういや。ハルから聞いたんだが……。和樹は3年に上がって直ぐから家庭教師を付けて猛勉強してるらしいぞ? お陰で成績はうなぎ登りだそうだ」 「は? んな話聞いてない……」 確かに、一学期の期末の点数も、赤点ギリギリだったあの頃に比べたら随分と上がっている気はしていた。ようやく和樹もやる気になったのかと喜んでいたのだが、家庭教師? 今年は担任からも、副担からも外れてしまった為に、担当する教科の時間しか会う事はない。 元々努力家で、本気で頑張れば伸びる子供なのは、バスケ部に入部した時から薄々感じていた。部活を引退したらすぐに大学受験が控えている。まさか、あの和樹がそこまで真剣に取り組んでいるなんて知らなかった。 「……うなぎ登りって……もしかして俺、ヤバイ約束した感じ?」 「ま、そん時は諦めてデートしてやれよ。センセ♡」 「マジかぁ~」 頭を抱えて項垂れる透を面白がるように眺めながら、アキラは「じゃ、オレは帰るわ」とヒラリと手を振って職員室を出て行った。 その日から数週間、たびたび職員室や廊下で他の教科の担当に質問をする和樹の姿を目撃するようになった。 放課後、教室に残って雪哉に勉強を教えて貰っている姿も何度か見掛け、その度に、なんだか心がざわついて落ち着かなかった。 勉強が嫌いで、直ぐに眠くなるとボヤいていたのは去年だったか。 あの頃に比べると、和樹は明らかに変わった気がする。 もしかしたら、透が知らないだけで、ずっと前から頑張っていたのかもしれない。 そう思うと、自分が知っている和樹はほんの一部でしかなかったのだと感じさせられた。 「……」 スマホのディスプレイに表示させたトーク画面を眺め、応援の言葉を打ち込んでみては消す。という動作を何度も繰り返す。 こんなものを送ったら和樹が調子に乗って暴走しだすかもしれない。いや、あれだけ頑張っているのだから一言だけでもメッセージを送ってやろうか。 いやいや、そんな事をしたら付け上がるだけだ。等と考えているうちに1時間が経過していて我に返る。 いよいよ明日は中間試験。 透は結局、「がんばれ」「ファイト」の一言も送れずにホームボタンを押し込んだ。

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