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遊園地に行こう 11
「何やってんの? 行こ」
「えっ、おぉ? じゃぁツレが来たみたいなんで」
そのまま引っ張られるようにしてその場を離れる。一瞬だけ振り返ると、先程の女性たちがこちらを見て残念そうに溜息を吐いていた。何だか悪いことをした気分だ。
でも、そんな事より……。
「おい、何処まで行くつもりだ」
掴まれた腕が痛くてズンズン進んでいく和樹に声を掛けた。
すると突然、ピタリとその足が止まる。そしてくるりと振り向いたかと思ったら、いきなり建物の陰に引っ張り込まれた。
「な……っ」
「さっき、何してたの? 女の子に囲まれて鼻の下伸ばしてさ」
(……なんだその言い草)
まるで嫉妬しているような口ぶりにカチンときたが、ぐっと堪える。ここで喧嘩をしてもいい事なんて一つも無いだろう。それにここは公共の場なのだ。大声で喚き散らすわけにもいかない。
そんなことを考えている間も和樹は黙ったままじっと透を見つめていた。
一体何なんだと困惑しながら和樹の顔を見上げると、いつもは穏やかに細められている瞳が何故か鋭く光っていた。射抜くような強い視線に、透はごくりと喉を鳴らす。
「別に、少し世間話をしていただけだ。 あと、鼻の下なんて伸ばしてない」
「……」
透の言葉に和樹は何も言わず、無言で睨み付けたまま更に距離を詰めて来た。
思わず後ずさるが背中が壁に当たり身動きが取れなくなってしまった。
「か、かず……っ」
透の声を遮るようにドンッと勢いよく壁に手を付かれ思わずびくりと肩が震えた。和樹の顔が眼前に迫ってきて思わず息を呑む。
こんなに間近で和樹の顔を見たのは初めてだった。まだ幼い子供のようだと思っていたのに、今目の前にいるのは紛れもなく大人の男だ。じりじりと近づいて来る距離に透は焦った。近い。近すぎる。
「ちょ、待――」
慌てて両手で突っ撥ねようとしたその時。
迷子を知らせるアナウンスが園内に響きわたり、和樹がぴたりと動きを止めた。
「――っ、……くっ」
途端、我に返った和樹がくしゃっと表情を歪めたかと思えば透の顔の横に突いていた手をゆっくりと下ろした。
「……ごめん」
唇をきゅっと噛みしめ、ポツリと呟いたかと思えばパッと顔を上げて少し困ったように笑った。
「あははっ、ちょっと調子に乗り過ぎたみたい」
「……」
「あ、そう言えばパフェ! 受け取り口に置いて来たんだった! ちょっと取って来るよ!」
気まずくなった空気を振り払うかのように早口にそう言って和樹が踵を返そうとする。
「俺も行く」
短くそう伝えれば、和樹はほんの一瞬躊躇った後、じゃぁ一緒に。と透の歩幅に合わせて歩き出した。
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