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遊園地に行こう 12

フードコートに戻ると、先ほどの彼女たちの姿は何処にもなくなっていて透はそっと胸を撫でおろした。 これ以上気まずい空気にはしたく無かった。折角の楽しい時間を台無しにしてしまう訳にはいかない。 それがわかっているから、和樹もさっき言いたいことをグッと飲みこんだのだろう。全く、いつの間にそんなに大人になったんだと、感心半分呆れ半分で小さく息を吐く。 まだ高校生だ。言いたいことがあるのなら全部ぶちまけてしまえばいいのに。 「マッスー。さっきはホントごめん」 「別に気にしてないから謝るなよ」 「……うん」 フードコート内は相変わらず賑やかで、皆楽しそうに笑い合っている。そんな喧騒の中、少し大きめのふわふわとしたかき氷を突きながら和樹がぽつりと呟く。 「マッスーってさ、モテるよな」 「はぁ?」 唐突な呟きに思わず素っ頓狂な声が洩れた。自分の人生で、モテたと言う程の経験はない。 「さっきの子たち、絶対マッスーの事狙ってただろ」 「あれは、狙ってたって言うより奢ってくれる男が欲しかっただけじゃねぇの?」 「……そうかもしんないけどさ」 和樹は納得できないと言った様子で口を尖らせる。 「それに、さっきすれ違った女の子たちもマッスーに声掛けたがってたし」 「……あれは違うだろ」 さっきパフェを取りに戻った時も違う女性がちらちらと此方を見ていたのは確かだ。 でもあれはきっと、男同士でパフェを受け取りに来た自分たちが物珍しく見えたからじゃないかと思っている。 「違わないよ。マッスー意外と鈍感そうだからな」 「……お前は本当に失礼な奴だよな」 「本当の事だし」 はぁっと大きな溜息と共に和樹が苦笑する。 「マッスーってさ、彼女いないの?」 「いると思うか? まぁ、仮に居たとしたら貴重な完全オフの日にお前とこんな所で甘い物食ったりして無いけどな」 「……確かに」 そう言いながらも、まだ思うところがあるのか和樹の表情はイマイチ優れない。  「たく、機嫌治せ。ほら」 「えっ」 スイっとフルーツパフェのフルーツが乗った部分を掬って口元へと持って行ってやる。 「ほら、早くしろよ。溶けちまうだろ?」 「えっ、わ……」 「ん、ほら」 「あーん、は流石に……」 「いいから口開けろってば」 和樹は恥ずかしそうに頬を染めながら、躊躇いがちに口を開けた。その瞬間クリームまみれのフルーツを口に放り込んでやる。 「どうだ? 美味いか?」 「んっ、……うん」 もぐもぐと咀しゃくしながらこくりと首を縦に振る。どうやら機嫌が直ってきたらしい。 「フハッ、単純だなお前」 「マッスーが食べさせてくれたからだよ」 少し照れくさそうに笑った和樹に、つられて頬が緩んだ。 やっぱりコイツは笑っている方がいい。

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