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てっぺんまでもうすぐ 3
(透SIDE)
ふっと頭上に影が差し、透はふと目を覚ました。
一体いつの間に寝てしまったのだろう? ぼんやりとした意識の中顔を上げると目前に和樹のドアップが迫っていた。
「!?」
ビックリして声も出ないまま固まっていると唇に柔らかな感触が触れる。
(……コイツ……っ)
文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、ちゅんと啄まれ一瞬離れたかと思うと、またゆっくりと重なった。
自分の両手に重なっている和樹の手が僅かに震えている事にことに気付いて、透は全身の力を抜き寝たふりを決め込むことにした。
(ま、こん位は許してやるか……)
ぎこちないキスにむず痒さを感じつつ薄目を開けて様子を伺うと、急に乗っているゴンドラが風に煽られカタカタと小さな音を立てる。
ビクッっと絵にかいたような驚き方をして後ろに飛び退る和樹の様子が可笑しくて仕方がない。
思わず笑ってしまいそうになるのを必死に堪えていると、和樹は向かいの椅子に座りキャップを目深に被って窓の外を見始めた。
何事も無かったかのように装っているつもりらしいが、耳が真っ赤になっているのが丸見えだ。
気まずい空気の中観覧車はゆっくりと下降を始め、色とりどりにライトアップされた園内の様子が見えてきた。
(もうすぐ終わるか……)
そう思うと名残惜しい気持ちが溢れてくる。
「ん……ふぁあ……もう、着いたのか」
「そ、そう……だね」
今起きましたと言わんばかりの欠伸をし、わざとらしく声を掛けてやると和樹はぎこちなく返事を返した。
その顔はまだ赤いままで、こちらから表情を窺い知ることは出来ないがきっとまだ動揺が収まらないのだろう。
「……及第点、だな」
「ふぇっ?」
ドアが開かれ係員に誘導されながら地上に降り立つ瞬間、パチッと和樹と目が合った。
自分の唇に指を押し当てクスリと笑う。
「下手くそ」
「っ、ま、マッスー起きて……っ!?」
口をパクパクして、唖然としている姿が何とも面白い。慌てる和樹を横目にさっさと歩き出す。
「ちょっ、ひどっ起きてたんなら言ってくれても良かったのに」
「人の寝込みを襲うにはまだまだ修行が足りないな」
ニヤリと笑ってそう告げてやれば、ぐぬっと悔しそうに睨み返してきたがすぐに諦めたように溜息をついた。
「じ、じゃぁ練習させてよ」
「ハハッ、バーカ。俺はそんなに安くねぇんだよ」
ピンとデコピンを食らわせて、ネオンが灯り始めた園内を出口に向かって歩きだす。
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