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衝撃の事実
「随分とご機嫌じゃないか。和樹と何処まで進んだんだ?」
翌日、出勤するとアキラがニヤニヤしながら近づいて来た。
「何処までって……あのなぁ、俺らはそう言うんじゃないって」
「ふぅん? 結構いい雰囲気だったけどな」
「っ」
キスくらいしたかと思ったのに。なんて冗談めかして言われて、ドキッとし飲みかけのコーヒーを思わず噴き出しそうになった。
「っ、あっつ……な、何言いだすんだ」
「おや? おやおやぁ? 透、何動揺してるんだ?」
「してねぇよ。ちょっとコーヒーが零れそうになっただけだ」
にんまりと口角を上げ、面白い玩具を見付けた子供のような顔を向けられ、透は慌てて平静を取り繕った。
「ふぅん、コーヒーがねぇ……」
「っ、いいからこんな所で油売ってないで授業の準備しろよっ!」
これ以上詮索される前にと、慌てて背中を押して席へと追いやった。
よほど透の態度が面白かったのか、アキラは自分の席でクックックっと小さく肩を震わせ笑いを堪えている。
だから嫌だったんだ。こうなることがわかっていたから、出来ればアキラにだけは見られたくなかった。
これはしばらく追及されそうだ。溜息を吐きながら何気なく窓の外を見ると、丁度和樹が同じクラスで仲のいい女子と楽しそうに談笑しながら正門をくぐってこちらに向かって歩いて来るのが見えた。
その女子の手に握られているぬいぐるみ型のキーホルダーに目が行った。それは昨日、和樹が遊園地で買った物と同じだった。家族に渡すからと言いながら、お土産用のお菓子の他に一つだけ選んでいたソレは、彼女に渡すものだったのか。嬉しそうに笑う彼女の笑顔を見て、何故だか胸の奥がモヤモヤする。
―――なんだろう、この気持ち。
別に、和樹が誰と仲良くしていても構わない筈だ。個人的にプレゼントを渡すような相手がいるのだって、悪いことではない。なのにどうして、こんなにも心がざわつくのか。
そんな相手が居るんだったら、わざわざ自分じゃなくて彼女と遊園地に行けばよかったじゃないか。そんな思いに駆られて思わず小さな溜息が洩れた。
あぁ、駄目だ少し頭を冷やそう。
胸に生まれた蟠りを払拭したくて席を立ち、給湯室へと向かおうとして人の話し声が聞こえてきた事に思わず足を止めた。
「……えーっ! それじゃぁ、相川先生、寝取ったって事っすか?」
「まぁ、そうなるかな? 奏多のヤツ、元カレが超淡白なヤツだったらしくてさ、物足りなかったらしい。ちょーっとモーション掛けたらあっという間に堕ちたわ。チョロすぎ」
「……っ」
偶然耳に入って来た会話の内容に、透は鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
彼女を大事にしたくてセーブしていたつもりだった。
それなのに自分の知らないところでそんな事を他の男に愚痴っていただなんて出来れば知りたくなかった。
「まぁ、ガキが出来たのは予定外だったけど……いい女だし、実家は金持ちだし? ラッキーって感じだよ」
「うっわ……マジ最低っすね。元彼さんかわいそー」
ケラケラと笑うその言葉に、目の前が暗く沈んで行く。今すぐその場に飛び込んで相川をぶん殴ってやりたい。
でも、そんな事をしたって自分が惨めになるだけだ……。
透は唇をグッと噛み締めると、ブルブルと怒りに震える拳を強く握り締め、そっとその場を後にした。
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