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微睡の中で
「本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だって。今日は自分で歩いて帰るよ」
ナオミの店でしこたま飲んだ後、心配するアキラとは駅で別れた。ほろ酔い気分で電車に乗り込むと意外にも車内は空いていて、透も座席に腰を掛けることが出来た。
今日は散々な一日だった。ナオミとアキラが愚痴を聞いてくれて多少はすっきりしたと思ったのに、知りたくもない真実を思い出すとどうしても気持ちが暗く沈んでしまう。
「ちょっと飲みなおそうかな……」
こんなモヤモヤした気分で帰ったところで眠れそうにない。ふと車窓から外を眺めると黄色い満月が辺りを煌々と照らしているのが見えた。今日はそこまで寒くも無いからコンビニでおでんを買って公園で月でも眺めながら飲むのもいいかもしれない。それがいい。着いたら早速コンビニに行こう。
善は急げと言わんばかりに、最寄り駅で降りるとコンビニへと直行した。そこで大根や卵、白滝、巾着などを適当に詰めて貰い数本のアルコールを買って公園のベンチに腰を下ろした。
自宅マンションからほど近いこの場所は、バスケットのコートがあって昼間は近所の子供達が遊んでいるのをよく見かける。
流石に今は静まり返っていて、時折吹く風が木々の葉を揺らし騒めくだけのその場所で透は何度目かの溜息を吐いて、手にしていた缶ビールのプルタブを開けると、プシュッと炭酸の抜ける音が響いた。それを口に含み、ゴクリと喉に流し込むと冷えた液体が胃の中へと流れ込んで行く。
「あー……虚しい」
一人でこうして酒を飲むといつも思う。こんな事をしていても余計に寂しさが募るだけだと。誰かと一緒に居たい。一緒にご飯を食べて、くだらない話をしながら笑って、そして――。
「キス……してぇなぁ」
無意識に呟いていた。
キスをするのは嫌いじゃない。どちらかと言えば好きな方だ。
ただ、彼女が寝取られてから二年。此処の所そう言う事はさっぱりご無沙汰だった。
淡白だと思われていたようだが実際は違う。人並み程度には性欲だってあるし、欲求不満にもなる。ただ、お互いの仕事や都合を無視してまでコトに及びたいとは思わないだけだ。
アキラは親友だが、こう言う話は余計にし辛い。かといって、風俗に行く気も起きなかった。
「って、欲求不満か?俺」
思わず洩れた自嘲的な溜息と共に透は残ったビールを飲み干し、おでんを口に入れながら二本目の缶に手を伸ばした。
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