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微睡みの中で 3

「……なぁ……」 「うん?」 「……っ、なんでもない」 何かを言いかけて逡巡し、そのまま口を閉ざした透に首を傾げる。首元まで赤く染まっているように見えるのは、酒に酔ったせいだろうか。 「お、俺帰るわ……っ」 勢いよく立ち上がった瞬間、ふらりと倒れ込みそうになった透の体を和樹が慌てて支えた。 「ちょっ、大丈夫!?」 「平気……っ、悪い……」 「……っ」 触れたところから伝わってくる体温の高さに驚くと同時にドキリとする。顔を上げると、至近距離で目が合った。潤んだ瞳と上目遣いで見つめてくる視線に胸が高鳴る。 これは、据え膳という奴ではないのだろうか。いや、もうこれ完全に誘ってますよね? このまま押し倒しても今なら許される気がする。 いやいや、落ち着け自分。相手はあの透だぞ? そんな事したら嫌われてしまう。それは絶対に嫌だ。 ぐるぐると葛藤する和樹を他所に、透はくにゃりと凭れかかって来た。ドクンドクンと心臓の鼓動が激しく脈打つ。これは、本当に誘われているのでは……。 いや 待て、冷静になれ。相手は酔っぱらいだ。きっとこの行動に深い意味なんて無いはず。 そう、これはきっと酔っ払い特有のアレだ。アキラだって、透は酒癖が悪いと言っていたし、つまりはそう言う事だろう。勘違いしちゃいけない。 和樹は己の欲望をグッと抑え込み、冷静さを装いながら透の体を支えて立ち上がる。 「たく……。ほら、帰るよマッスー。送っていくから」 「ん……」 透は力の抜けた返事をすると、ふっと体の力が抜けて体重を預けてくる。 (……あー……これ、ダメかも……) 肩にかかる吐息が艶っぽくてクラクラしてくる。アルコールで火照った体が密着して、伝わる高い体温が妙な錯覚を起こしそうになる。 いや、駄目だ。こんなの良くない。理性を保て。ここで変な事をしてしまえば今まで築き上げて来た関係が全て崩れ去ってしまう。 必死に自分に言い聞かせながら、和樹は透のマンションへと向かうべく歩き出した。 ふと振り返ると、大きな満月が二人の行く末を見守っているような気がした。

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