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微睡みの中で 5

「マッスー、誘ってんの?」 耳元に唇を寄せ、低く囁いてやるといきなり首に腕が絡みついて来た。そのまま引き寄せられて、透の顔が間近に迫る。 そして、ちゅ、と軽く触れるだけのキス。たったそれだけでも和樹の思考を停止させるには充分すぎた。 今にも蕩けそうな視線が絡み、熱い吐息が頬を掠めたかと思うと一度離れた唇がまた重なった。しっとりと唇を吸われ、首の後ろがざわっと粟立つ。 僅かに開いた口内にするりと舌が滑り込んで来る。びっくりしすぎてどうしたらいいのかわからず固まったまま動けずにいると、透は戸惑う和樹の舌を絡め取って強く吸い上げた。 「ん……、ふ……っ」 柔らかくて温かな舌が口腔内で動く度に甘い痺れが走る。 知らなかった。キスってこんなに気持ちの良いものだったなんて。夢中で貪るような濃厚な口づけに頭がくらくらする。舌と舌がぶつかり合った時、ちゅくっと濡れた音がした。それだけでも充分刺激的すぎて、和樹は思わず腰を引いた。 天然の痴態に煽られ、今や下半身はズクズク疼いて痛いほど張り詰めてしまっている。 だが、透は何も答えなかった。それどころか、ひとしきりキスをして満足したのかスースーと穏やかな寝息まで聞こえてくる始末だ。 「……マジかよ……っ」 散々期待させておいて、おあずけとか酷い。据え膳食わぬは何とやらというが、流石にこの状況で何もしないというのは男として無理がある。 無防備にすやすやと眠る透の姿にゴクリと喉が鳴る。 ああ、もう、いっそのことこのまま襲っちゃおうか。そもそも誘って来たのは透の方だ。 このまま欲望に忠実に行動してしまえと頭の中で悪魔が囁く。そうだよ、据え膳喰わねば男の恥。こんな美味しいチャンス逃す手はない。 「たく、人の気も知らないで気持ちよさそうに寝ちゃってさ……起きないと、このまま襲っちゃうよ?」 ドキドキしながら透の服に指をかけるゆっくりと脱がしていく。男らしい胸板に、程よく引き締まった腹筋。無駄なものが一切付いていない綺麗な身体だ。 鎖骨にキスを落とし、滑らかな肌に手を這わせると透がピクンと反応を示した。 「んっ、は……っ」 透は相変わらずすぅすぅと規則正しい呼吸を繰り返していて起きる気配は無い。 やや陥没気味の胸の突起に指を滑らせると、そこはすぐにぷっくりと勃ち上がった。 それを摘み、コリコリと弄ぶ次第に透の口からは微かに喘ぎ声にも似た溜息のような吐息が洩れ始める。 一体何の夢を見ているのだろう? 時折悩ましげに眉根を寄せて小さく身悶える姿はひどく淫靡だ。 和樹は無意識のうちに自分の股間に触れていた。ズボン越しに感じる昂ぶりは窮屈そうに布地を押し上げている。 早くこの熱を解放したい。 透の乱れた姿をもっと見たい。 そんな欲求が沸々と湧き上がる。 「ごめん、マッスー」 謝りながらも欲望を抑える事が出来ず、ベルトに手をかけたその時だった。 「ん……っ」 「!?」 透の瞼がぴくりと動いたかと思った次の瞬間、いきなりガバッと勢い良く抱き着かれた。 和樹の背中に回された腕がギュウっと締め付けるように力が込められる。 「ちょ、マッス……」 「……た……」 「へっ?」 「……奏多……」 「……っ」 自分を抱きしめながら、耳元にハッキリと響いて来たのは、全く違う名前だった。

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