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揺れる思い 6

職員室に足を向けたが、こういう時に限って透の姿は見当たらない。一体何処に行ったのだろう? トイレかな? 「和樹? お前こんな所でなにやってるんだ?」 不意に声を掛けられて振り返る。アキラが怪訝そうな顔をしてこちらをじっと見ていた。 「アキラセンセ! マッスーは? 何処!?」 「透? アイツなら多分喫煙室に居るんじゃないか……って、お前、授業は? もうすぐ始業の合図が鳴るぞ」 「喫煙室だね! ありがとっ!」 「あっ、おいっ!」 制止する声を無視して一目散に駆け出す。後ろから他の教師の声が聞こえたが、今はそれに構っている暇はない。 一階まで駆け下りて、体育館の裏手にひっそりと佇む喫煙ルームを目指す。 途中、廊下を走るなとか、サボりは駄目だとか言われたけれど、和樹は気にせず走り続けた。 人気のない校舎裏に差し掛かった時、反対側からこちらに歩いてくる人影に和樹は思わず急ブレーキをかけた。 「たく、あいつ……また勝手な事ばっか言いやがって……」 スマホに集中しているのか、透は此方に気付いていない。ブツブツ言いながら歩く姿は少し不機嫌そうだ。 しかし、よく見てみれば透の目元には大きなクマが出来ているし、顔色もあまり良くないような気がする。 声を掛けようかと思い一歩踏み出したその瞬間、透の体がぐらりと揺れて倒れそうになり和樹は咄嗟に腕を掴んだ。 そのまま抱き留めるように引き寄せると、驚いたように見開かれた透の瞳と目が合う。 「悪い、ちょっと眩暈が……って、お前、何やってるんだこんな所で、授業は?」 「今、それどころじゃないだろ? マッスー保健室行こう。連れて行ってやるから」 「いや、俺は……」 「いいから! 行くよ」 ピシャリと言葉を遮って、身体を支えて歩き出す。本人も具合が悪いのは自覚しているのか抵抗することも無く大人しくついてきた。 ここ数日、特別授業が多くて透の姿を見ていなかった。久しぶりに間近で見る透の顔はやはり青白く、目の下の隈も酷い。 何か悩みを抱えているのだろうか? もしかしたら既にあの事を知って思い悩んでいるのかも? そんな思いに囚われて胸に苦いものが込み上げてくる。 色々聞きたいことはあった。けれど、今は透を休ませることが先決だと唇をきゅっと引き結んで保健室へと歩を進めた。

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