64 / 226

揺れる思い 透SIDE 2

「あぁ。心配かけて悪かったな」 「たく、本当だよ。いきなり倒れるんだもん俺があの場に居なかったらと思うとゾッとする」 そう言えば、何故和樹はあの場所に居たのだろうか?  普通なら教室に居るはずの時間帯だったはずだ。 「なんでお前あんな所に?」 それは、と和樹は言葉に詰まった。躊躇うように何度か唇を開いては閉じ、俯く。 暫く黙っていたがやがて意を決して口を開いた。 「マッスーの事、探してたんだ……。あの、須藤先生の事で」 「……」 「マッスーって、須藤先生の何? この間、仲良さげに話してるの偶然聞いちゃったんだ。でも、相川の奥さんだし……どうしても気になっちゃって」 ある程度予想はついているのだろう。核心を突くような言葉に透は押し黙る。 「別に、話したくないならいいよ。深くは聞かない……。けど、今回倒れた原因があの人にあるんなら、知りたいと思う」 真っすぐ射貫くような視線が痛い。いつものようにヘラヘラ笑っている彼の姿は無くて、真剣そのものと言った様子に胸がざわついた。 「……はぁ、全く……お前って、なーんも考えてませんって面してんのに案外よく見てるんだよなぁ」 透は下手に誤魔化しても無意味だと判断したのか、髪を掻き上げ小さく溜息を吐いた。 「まぁ……そうだな。確かに俺は昔、奏多と付き合ってた。けどそれは結婚前の話で、今はもう何の関係もない」 「……まだ、好きなんだろ?」 「ハハッ、馬鹿言うなよ。流石にそれは無い。……けどなぁ、色々あって別れたけど、好きだった相手が旦那と一緒に同じ職場に居るってのは見せ付けられてるみたいで流石にちょっとキツイっつーか……」 こんな話を、和樹にするのはおかしいとわかっていた。けど、一度口をついて出た感情は留まることを知らず溢れ出してくる。 「奏多が結婚するって知った時、すげぇショックだったんだ。前日まで付き合ってたのに、いきなり腹に子供が居るから別れてくれ。だもんな……。自分の中で折り合いを付けてたつもりだったんだけどなぁ……」 思わず洩れた自嘲的な溜息は、和樹に抱き寄せられた事によって呑み込まれた。

ともだちにシェアしよう!