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揺れる思い 6

その日を境に、和樹は人目を盗んでは透にキスをするようになった。最初は軽いキスだったのが、徐々に深いものに変わっていき、最近では舌を絡ませる濃厚なものにまでエスカレートしている。 ついこの間なんて、視聴覚室で一番後ろの席なのをいい事に強引に引き寄せられ、半ば無理やり唇を奪われた。 他の生徒達がみんな前にある画面に集中していてくれていたから良かったものの、誰かに見られたらどうするつもりなのだろうか。 もうこんなことはやめさせないといけない。頭ではそうわかっているのに、何故か透は和樹のキスを拒むことができなかった。 ちゅ、ちゅ……と小さなリップ音が響く。人気の少ない廊下の片隅で半ば強引に壁に背を押し付けられ、透は今日も和樹に激しく唇を奪われていた。 「っ、おい! ここ廊下だぞっ! 誰か来たら……ッ」 「わかってる、でも少しだけ……」 「ちょっ! んぅ……」 文句を言う暇もなく顎を掴まれまた唇を奪われる。和樹の舌が歯列を割り口腔内に侵入してきて、今度は遠慮なしに透のそれを絡め取っていく。 抵抗しようと身を捩るが、壁に押し付けられているせいで上手く身動きが取れない。 透は和樹の胸板をドンと叩いて抗議するが、そんなものはお構いなしと言った様子で更に深く舌を差し入れてくる。 「ん……ふ、……ぁっ」 歯茎や頬の内側など、今までに知らなかった性感帯がどんどん暴かれていく。 和樹は舌を絡め合わせながら、時折上顎を舐めて透の舌を吸い上げた。 くすぐるような刺激に、腰がじんと痺れて立っていられずにズルリと膝から崩れ落ちそうになるのを和樹の腕が抱き留めて支えてくれる。 「っと……マッスー大丈夫?」 心配する素振りを見せながらも、和樹は満足そうに口角を上げて笑っている。 「お前、なぁ……っ」 ずるずると腰を落としたそうになった透は、和樹の肩にしがみ付きながらキッと和樹を睨みつけた。 しかし、潤んだ瞳では迫力なんて微塵も無い。 和樹は嬉しそうな顔をして透の唇を親指の腹で拭うと、「ごめん。可愛くてつい」と言ってチュッと軽く触れるだけのキスをしてくる。 「か、可愛くはないだろっ!」 「可愛いよ、すっげー。キスだけでこんなになっちゃんだもん」 「そ……ッ」 言いながら腰を撫でられ、ビクリと体が跳ねた。 和樹の手は腰骨の上をスルリと滑り、そのまま臀部へと移動していく。 「あっ、ちょっバカ、何処触ってんだ」 「しー。大きい声出すとバレちゃうよ?」 和樹にしがみ付くような体勢で引き寄せられ股の間に膝を割られぴたりと合わさっていた股間の辺りが、彼の足でグリッと押し上げられる。 敏感な部分を押されて、思わず変な声が出そうになったのを必死に堪えた。 「なぁ、このままここで続きしたいんだけど、ダメ?」 耳元に吐息交じりの声を吹き込まれ、ゾクッと全身が粟立つ。 「い、いやいやいやいや、絶対駄目だからな!?」 「えぇ~? ちょっとくらい良いじゃん。一回だけだからさ」 「よくない! いいわけ無いだろっ!」 慌てて両手で突っ撥ね、和樹の体をグイグイ押し返す。和樹は不服そうに眉を寄せて透を見下ろしてきたが、これ以上流される訳にはいかない。 「じゃぁ、場所替えたらいい?」 「だからっ、そう言う問題じゃないっ! だいたい、キスは許してやってるんだから我慢しろよ」 透がそう言ってそっぽを向くと、和樹は拗ねたように口を尖らせて溜息をついた。 「……マッスーの鬼っ! こんなの、蛇の生殺しじゃん」 「何とでも言え。ダメなもんはだめだっつーの」 「ケチ」 「ケチで結構」 「……わかったよ。我慢する」 渋々といった様子ではあったが、何とか諦めてくれたらしい。和樹は透から手を離すと、丁度そのタイミングで予鈴が鳴り透はホッと胸を撫でおろす。 「残念。俺もう行かなきゃ……またね、マッスー」 名残惜しそうにしながら、和樹は教室へ戻って行った。 「……っあーくそ……っ」 その姿が見えなくなると、透はズルズルと腰を落としてガシガシと頭を掻いた。あんな風にされると、こっちだって意識してしまうじゃないか。 男同士なのに、キスが気持ちいいとかおかしい。でも、不思議と嫌じゃなくて、寧ろ――。 「……いやいやいや、ないないないない!」 ブンブンと頭を振って邪念を払う。 今考えるのは止めよう。この先はきっと取り返しのつかない事になる気がする。 「ッ、取り敢えずコレ何とかしないと……」 透はふら付く足で何とか立ち上がると、盛大な溜息を吐きながらトイレへと駆け込んだ。

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