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我慢できない 6

静かな室内にカリカリっとシャーペンを走らせる音が響き渡る。 向かい側に座る和樹の真っ白なノートに文字が刻まれていくのを透はぼんやりと眺めていた。 土曜日の昼下がり。透は今、自宅のリビングで和樹と向き合っている。 勿論、拓海やアキラも一緒で今夜はこのまま、泊りがけの勉強会を行う予定になっていた。 いつも一人きりの部屋に大の男が4人も居るのだから何となく気分が落ち着かない。 此処に雪哉まで居なくて良かった。流石にそんな大人数が集まれるような客用の布団は無いしスペースもない。 今日は先輩とデートだから遠慮しときます。なんてわざわざ丁寧に断りにきた時は、本当に出来た生徒だと感心してしまった程だ。 雪哉には申し訳ないが、透にとってはある意味好都合ではあった。 それにしても……。 テーブルの上には数学の問題集と参考書が広げられ、和樹は真剣な面持ちで問題に取り組んでいる。 こうやって、ちゃんと勉強している所を間近で見るのは初めてかもしれない。 普段はふざけてばかりいるのに、こうして見るとやっぱり和樹も受験生なんだなと実感する。 普段の言動があまりにも自由過ぎて、つい忘れそうになるけれど。 シャープペンシルを握る手は骨ばっていて大きく、ゴツゴツとしていて、いつも見ている筈なのにドキリと胸が鳴る。 思わず見惚れてしまいそうになったが、慌てて頭を左右に振ることで煩悩を振り払った。 「透~、なに見惚れてるんだ?」 するりと顔を寄せて耳元で低いアキラのバリトンボイスに囁かれ、透は飛び上がらんばかりに驚いた。 するりと顔を寄せて耳元で低いアキラのバリトンボイスに囁かれ、透は飛び上がらんばかりに驚いた。 「んなっ、い、いきなり耳元で囁くなっ!」 思わず上擦った声が出て、部屋の中に大きく響く。 しまったと思った時には既に遅く、拓海と和樹が不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。 「びっくりした。なに、どうしたん?」 和樹がきょとんとした表情を浮かべて首を傾げる。 「な、何でもない! 悪いな邪魔して」 慌てて取り繕うが、和樹は何か想うところがあったのか、ふぅん? と少しだけ口角を上げた。 非常に居た堪れなくなって、ニヤニヤと口元を緩ませるアキラを睨みつける。 しかし、アキラはそんな透の様子を見て、更に楽しそうに口端を吊り上げただけだった。 「ふぅん、なんでもない、ねぇ……」 「な、なんだよ」 「別にぃ?」 何か言いたげなアキラだったが、それ以上は何も言わず恋人である拓海の側に座りなおすと、甘えるように肩に頭を乗せた。 「アキラ、暑苦しいから離れろってば!」 「別にいいだろ、こんくらい」 「良くない! こう言うの見られんの嫌だって言ってるじゃんか」 頬を膨らませ、口では嫌だと言っているものの満更でもなさそうな様子で拓海はアキラを押し返そうとする。 「相変わらず、ラブラブだな」 「羨ましいだろ?」 「はいはい、そうだな」 半ば呆れたように返事をして一息入れようかと透はゆっくりと席を立った。 「あれ、マッスー何処行くの?」 「コーヒーいれてくる。お前らも飲むだろ?」 「あ、俺も手伝うよ」 「いいって、和樹は勉強しとけよ」 すかさず立ち上がった和樹を制し、透はヒラリと手を振ってキッチンへと向かう。 それなのに、和樹は何故かその後を付いて来た。

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