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我慢できない 7

「いいよ、一人で。お前は勉強しとけよ」 「4人分は重いだろ? 俺も運ぶの手伝うよ」 「……」 そう言われてしまえば無下に断ることも出来ない。 仕方なく、透は嘆息して「じゃあ、頼む」とだけ答えた。 二人で並んで食器棚からマグカップを取り出し、インスタントの粉を計って入 れる。お湯を注いでかき混ぜればあっという間に完成だ。 自分の分はブラックで、和樹はミルクたっぷりのカフェオレ。 「アイツらは……っと」 チラリとカウンター越しに見てみれば相変わらずイチャイチャしていて、その光景に透は苦笑した。 「たく、勉強はどうしたんだよ、勉強は」 ぼやきながらカップにお湯を注いでいると不意に後ろから肩と腰に腕が回され、そのままギュッと抱き寄せられた。 突然の事に驚いて振り返ると、すぐ目の前に和樹の顔が近付いていた。不意打ちは食らわないとばかりに透は咄嗟に手の平で和樹の顔を押し返した。 「何やってんだ」 「キスしたいなぁって思って」 「あのなぁ、お前は何しに来たんだ? ん?」 呆れた声を上げて和樹の身体を引き剥がし、透は出来上がったばかりの飲み物を持ってリビングへと戻った。 「たく、こう言う事するんだったら泊めてやらねぇからな」 「えぇ、そんなぁ」 情けない声を漏らす和樹を無視して、透はコホンッと咳払いを一つしてマグカップをテーブルに置いた。 すると、今まで二人の世界に没入していた拓海がハッとしてこちらを見る。 「お前らも真面目にやれよ」 「そう堅い事言うなよ」 「俺らが気まずいんだよ馬鹿」 アキラの頭にコツンとカップを軽くぶつけてやると、アキラは不満そうな声を漏らしたが特に反論する事もなく大人しく口を閉じた。 それからみっちりと夕方まで勉強し、みんなで作ったカレーを食べて、風呂に入って――。 「なぁ透。俺らこっちの部屋使うから、後よろしくな」 風呂から出てキッチンで水を飲んでいると、突然背後から声を掛けられた。 「なっ、はっ!? よろしくってアキラおまっ、何勝手に決めてるんだよ」 アキラの言葉に驚きの声を上げるが、アキラはしれっと涼しい顔で答える。 「だってお前、俺らと和樹を一緒に寝かせるのは酷ってもんだろ」 「それは……っ」 確かに、拓海達と和樹が一緒の部屋に居るのはきっと気まずいに違いない。 だが、だからと言って――。 言葉に詰まる透に、アキラは追い討ちをかける。 アキラは、フッと妖艶に微笑むとそっと耳元に唇を寄せてきた。 「可愛い生徒に《《夜の特別授業》》も教えてやれば? 透センセ」 腰に響く低音を耳の近くで発せられて、背筋がぞくっと震える。 透は耳を押さえ、キッとアキラを睨んだがアキラはそんな透の様子を気にすることなく意味深な笑みを湛えたまま拓海の肩を抱いて空いている方の部屋へと吸い込まれていった。 「なっ、そんな事するわけ無いだろっ!!」 勿論、夜の事を考えていなかったわけでは無い。むしろ、透にとって一番の気がかりはそれだった。 アキラと自分が一緒の部屋で寝るつもりだったのに、まさか和樹と二人きりになるなんて想定外だ。 いくらなんでも生徒を襲ってしまうような事はしないが、あんな言われ方をしたら嫌でも意識してしまいそうになる。 「あれ? 拓海たちは?」 「っ、あ、あー……その、なんだ……二人で寝るって」 風呂から上がったばかりの和樹に声を掛けられ、透の心臓はドキリと跳ね上がる。 「ふぅん……って事は……俺は、マッスーと一晩一緒?」 ちらっと和樹の視線がこちらに突き刺さった。 「……や、寝にくいだろうし俺はソファで……」 「マッスー」 和樹は透の腕を掴むといきなりグイッと引き寄せ、透はバランスを崩して和樹の胸に倒れ込む形になった。

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