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我慢できない 8
慌てて離れようとするが、和樹はそれを許さなかった。
ぎゅうと抱きしめられて、和樹の心音がダイレクトに伝わってくる。
「ちょ、離せっ馬鹿」
「逃げないでよ、マッスー……」
切なげな声で名前を呼ばれ、思わずドキリとする。
そんな透の心情を知ってか知らずか、和樹は更に強く透を抱き寄せた。
ドクンドクンと早鐘を打つ鼓動がうるさい。
こんなにも近くに居たら、和樹に聞こえてしまうんじゃないかと不安になった。
「別に逃げてる訳じゃ」
「逃げてるじゃないか。こんなに警戒して。びくびくされると、あー、俺の事意識してるんだなって嬉しくなるけどね」
耳元で囁かれ、透はビクッと肩を震わせた。
耳元で喋られるのは苦手だ。ゾワリとした感覚が全身を駆け巡る。
「誰がっ ……誰が意識なんて!」
思わず耳を押さえて抗議すると、和樹がクスっと笑う気配がした。
「意識してないって言うなら別に一緒の部屋で寝ても構わない筈だよな?」
ぐぬぅ、と喉の奥から変な声が出る。
何も言い返せない透の様子を見て、和樹は満足げな表情を浮かべると腕の力を抜いて解放した。
「わ、わかった! 一緒の部屋でもいいけどっ絶対に手出すなよ!」
「えぇ……」
和樹は不服そうな声を洩らしたが、透は断固として譲らなかった。
「じゃぁ、キスはいい? マッスーに触るのは?」
「だ、駄目だ……普通、そう言う事はしないもんだろ」
「チューするの好きだろ?」
「……っそれでもダメだ。同じ部屋で寝てやるんだからソレで我慢しろよ。嫌だって言うんなら俺がソファで寝るから」
ハッキリとそう告げると、和樹は渋々と言った様子で承諾してくれた。
ほっと安堵の息を吐いて透は自分のベッドに横になり、和樹がすぐ側に敷いた布団に潜り込んだのを確認してから部屋の電気を落とした。
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