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眠れぬ夜は君のせい
「……っ、んん、ぁッ」
不意に何処からともなくボソボソと人の話し声のようなものが聞こえた。
透の意識がゆっくりと浮上してくる。
「あ、ンッ……ア、キラっ、くすぐったい」
今度ははっきりとそう聞こえて、夢現を彷徨っていた透は、一気に目が覚めた。
重たい瞼を開くと、辺りはまだ真っ暗だ。
(なんだよ、まだ夜じゃないか。おれ、テレビ付けっぱだったっけ?)
あくびを一つして、時間を確認しようと枕元に置いた携帯に手を伸ばそうとした所で、重大な違和感に気がついた。
よく考えたら隣の部屋にアキラ達が泊まっているんじゃないか!
「ッ、は……ぁ、あっ」
「!?」
明らかに艶のある嬌声が響いてきて、ぎょっとして僅かに身を引いた。
二人で寝たいと言い出した時に、そうじゃないかとは思っていたが、ウチの壁は思っていた以上に薄かったらしい。
透は上掛けの中で息を潜め、寝返りを打つふりをしてくるり反対を向いた。
(な、な、なにやってんだよアキラのやつ!)
いくら何でもこういう時位我慢しろよ。一体何を考えているんだ! と、呆れてしまう。
心臓が痛いほど鳴っていて息苦しい。落ち着け、と自分に言い聞かせて大きく深呼吸を繰り返す。
だが、声の主が拓海だと分かった途端、透の身体がカッと熱くなった。
普段色気のいの字も感じさせない拓海の口から、聞いた事も無いような甘えた声が漏れている。
「ぁっ、ん、痕、付けたらヤ、だって……ッ」
頭はすっかり冴えてしまい、眠気なんてとうの昔に何処かすっ飛んでしまっている。
よりによって人ん家でなにしてるんだ。スるなら他の場所でしろって。焦る透の願い虚しく、耳に生々しい衣擦れの音が響いて来る。
あー……うん、ウチの壁、薄すぎな。
クッと息を詰める気配まで感じ取ってしまい思わず頭を抱えたくなった。
「……はっ、んッふ、ぁん……んッ」
ホントどうしよう。大変な時に目が覚めてしまった。
抜け出すに抜け出せない状況に気が動転し、息が詰まる。心臓は物凄い速さで脈打っているし、全身から嫌な汗が噴き出して手のひらがじっとりと湿っぽ
い。
呼吸ひとつするにも、二人に起きていることがバレやしないかと、心配で仕方がない。
それにしても――。
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