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眠れぬ夜は君のせい 12
「アイツ、いつの間に……」
こんなのを付けられては嫌でも意識してしまう。あの時の和樹の表情がフラッシュバックする。
余裕の無い表情。自分だけに向けられる欲情しきった瞳。
ドクンドクンと心臓が高鳴る。
全身の血が沸騰するかのように熱くなり、呼吸が苦しくなった。
こんな感情は初めてでどうしていいかわからずに、慌てて風呂場へ向かうとシャワーのコックを思いっきり捻って頭から被った。
今まで、何人か付き合った女性はいたがここまで感情を揺さぶられる様な相手はいなかった。それが、まさか男相手にこんな事になるなんて……。
考えれば考える程わからなくなってくる。自分は一体、どうしてしまったのだろうか。
自分は別に男色家では無かったはずなのに。和樹の手によって今まで自分が知らなかった性感帯が暴かれていく事に戸惑いを隠せない。それに、何より怖いのは自分の中に生まれつつある新たな欲望だ。
『次は此処、試してみようか』
不意に昨夜の言葉が頭を過り、ぞくりと背筋が粟立った。
それってつまり、和樹のアレが自分の中に……。そこまで考えて、ハッと我に返ってぶんぶんと首を振った。
いやいや、何を考えてるんだ自分は! 冷静になれ。落ち着け。大体、そもそもなんで自分が受け入れる側なんだ!
まぁ、自分が和樹に突っ込めるかと言われたらそれはそれで無理だが。というか、それ以前に自分はゲイではないはずだ。
確かに和樹は顔立ちもそこそこだし、バスケを始めてからと言うものいい筋肉がついて来ているようにも思う。性格も明るいし、人当たりもいい。
見た目はまぁまぁ悪く無いかもしれないが、中身はただのエロガキだし、すぐに調子に乗るし、馬鹿なことばかりする。
自分の好みは大人しくて可愛らしい感じの女の子だ。間違っても男になんか興味は無い……はず。
でも、でももし仮に万が一、和樹が本気で迫ってきたとしたら? 正直、嫌いなタイプでは無い。
寧ろ、いつも一生懸命で真っ直ぐで、ちょっと強引な所はあるが素直な和樹に何処か惹かれている部分があるのも事実だったりする。
だからと言って、はいそうですかと簡単に受け入れられるかと言ったらそれはまた話が別だ。
だって、そんなの絶対あり得ないだろう。
自分が誰かに抱かれたいだなんて。
そんな事思う日が来るわけなんて無い。絶対に。
でも、もしも……。拓海だって元はノーマルだった筈だ。
それなのにあんな、淫らな声を出して……気持ちよさそうな声を――。
そんな事を考え始めたら思考がどんどんおかしな方向へと進んで行く。
ああもう、駄目だ。これ以上考えたらいけない気がする。
自分に言い聞かせるように何度も繰り返して、なんとか平静を保とうとする。
だが、一度自覚した熱は簡単には冷めてくれなくて。
透は暫くの間、浴室から出ることが出来なかった。
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