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嫉妬とすれ違い 5
「……わかってんだろうな、和樹。昨夜のことは絶対に誰にも言うなよ?」
アキラが部屋に戻ったのを確認し、透は近くに居た和樹の襟ぐりを掴んで引き寄せると、低い声で脅しをかける。すると、よほど怖かったのか和樹は慌てたように何度もコクコクと頭を上下に動かした。
「ハハッ、言わない! 言わないからさそんな凄まないでよマッスー。……でも、またシてもいい?」
「ぁあ? い、いいわけ無いだろっ!!」
この馬鹿は一体何を言っているのだろう。あんなの何回も出来ると思ったら大間違いだ。
「だって、すげー気持ちよかったし。マッスーだって気持ちよ……ムグっ!」
「あーっ、あー! それ以上言うな馬鹿ッ! わかったな!?」
余計なことを言いかけた和樹の口を手で塞ぎ黙らせる。
「ふがっ、ふんがっ!」
「……お前、本当に反省してるのか? 今度同じことしたらマジで出禁にするからな」
手を離すと和樹は恨めしそうな目で此方を睨んできた。
「それは嫌だ。でも……」
「でも、じゃない。わかったらそこにある野菜切っといて。適当にサラダ作ってくれよ。いくら何でもサラダ位は作れんだろ?」
「うん……。ねぇ、マッスー」
「今度はなんだ」
しつこく食い下がってくる和樹をあしらいつつ、朝食の準備を進めていると、不意に真剣な表情で名前を呼ばれ、思わず手が止まる。
「……俺の事、好きになってくれる予定はないの?」
「はぁ? またそれかよ。……何度も言わせるなって」
「…………そっか」
和樹はそれ以上何も言わなかった。黙々とレタスをちぎり、手際よくキュウリやトマトを切ってサラダを完成形に近づけていく。
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