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嫉妬とすれ違い 9

「実はね、ウチの旦那……浮気してるみたいなの」 「……」 なんだ、そんな事か。どんな言葉が飛び出すのかと身構えていただけに、少し拍子抜けしてしまった。 「ふ~ん、それで?」 「それだけ?! もっとこう、慰めるとかないわけ?!」 「お前がそれを言うのか?」 呆れてものが言えない。人の事を散々弄んでおきながら、どの口が言っているのだと言いたい。 「慰めて貰う相手が違うだろ。そんな話だったら俺は帰るぞ」 運ばれてきたばかりのジョッキを手に取り、一口だけ飲んでからグラスを置く。 「待ってよ。こんな話が出来るのは透しかいないの……」 すがるような眼差しで此方を見てくる。昔はそんな眼差しすら可愛いと思えていたが今は不快でしかない。 透は深いため息をつき、視線を逸らすと、苛立ちを抑え込むように髪を掻き上げた。 「あのなぁ、俺とお前はとっくに終わってんだろ? 俺にどうしろってんだ。そもそも、なんでそれを俺に相談してくるんだ? 俺達は別れたんだぞ?」 透の言葉に、奏多は唇を噛み締めたまま俯いてしまった。 「それは……そうだけど……」 「俺だって暇じゃないんだ。それに、お前の悩みを聞いてやれるほど優しくない」 「……」 「悪いけど、他をあたってくれ」 これ以上話すことはないとばかりに立ち上がろうとした時、突然手首を掴まれた。 「お願いっ、もう少しだけ聞いて欲しいの」 「…………」 「このままじゃ、私……」 泣き出しそうな表情を浮かべながら、必死に訴えかけられ、思わず足が止まる。 「お願い……。もう、他に頼める人なんて、いないの」 「……わかったから、座れ」 力なく項垂れた奏多を見て、仕方なく腰を下ろす。 やっぱりアキラを連れてくればよかった。そうすれば、この面倒臭い状況を少しでも回避出来たかもしれないのに。 今からでも呼ぼうか? いや、流石にそれは迷惑だろう。 (ったく、どうしてこうなるんだ) 心の中で悪態をついていると、タイミング良く店員が料理と飲み物を持って入ってきた。 とりあえず、酒と食べ物で腹を満たしてしまえば少しは気が紛れるかもしれないと思い直し、適当なメニューを追加で頼む。 アキラには散々お前は優しすぎるんだよ等と言われて来たが、やはり自分は甘い人間なのかもしれない。 「言っておくが、愚痴を聞いてやるのは今夜が最後だ。次は無いからな」 「うん、わかってる」 奏多はおずおずと顔を上げ、ぽつりぽつりと経緯を話し始めた。

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