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嫉妬とすれ違い 12
それを見逃す和樹ではなく、腰を抱いて更に距離を縮めてきたので、透は慌てて顔を背けた。
「こう言う事はすんなって言っただろうが……誰か来たら」
「大丈夫だって。ここ滅多に人が通らないのマッスーも知ってるだろ?」
「そうだけど! と、とにかく話せ! 少し自嘲しろって言ったばかりだろうがっ!」
「だってさー、朝っぱらからあんな可愛い顔見せられて冷静で居ろって方が無理じゃん?」
「正当化すんなアホ! それと、いっぺん眼科行って来いよ。俺が可愛いとか目が悪いんじゃないのか?」
「ひどっ! これでも視力両眼1.5あるんだけど?」
「なら頭だな。医者行けよ。と、とにかく! 予鈴鳴るから。早くいかないと遅刻になるぞ」
そう言って強引に押し退けると、和樹は不貞腐れたような表情を浮かべながら渋々手を離した。
全く、油断も隙も無い。
「とにかく、学校でこう言う事は止めろ」
「えー、じゃあ何処ならいい?」
「ど、何処って……」
そんな風に聞かれても返答に困る。そもそもそんな事を言われるとは思ってなかったので考えていなかった。
「と、とにかく!ダメなもんは駄目だ! わかったならさっさと教室へ行く事」
くるりと反対を向かせ背中を無理やり押してやると和樹は不服そうにしながらも大人しく従った。
「ちぇ、仕方ないか。続きはまた後で……ね」
「――ばっ、馬鹿なこと言ってないで早く行けって」
「は~い」
ひらひらと手を振り教室に向かって歩き出した和樹を見送り、透はひっそりとため息を吐いた。
それにしても困った、和樹のスキンシップは日々大胆になってきているように思う。
このままでいいわけがない。
何とかしなければと思う反面、心のどこかではもっと触れて欲しいと思っている自分もいて困惑していた。
「――っと、やべ。俺も急がないと」
授業開始まであと5分しかない。
熱くなった頬を冷ますように身を震わせながら、透もまた足早に校舎へと入って行った。
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