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一歩踏み出す勇気
透SIDE
(全く、なんなんだよアイツは……)
結局、始業の合図には間に合わなかったし、今日は最悪だ。
和樹が去って行った後、真下に自分のスマホが落ちていた。
開けた瞬間、通知の部分に奏多からのメッセージが届いていて、もしかしたら和樹はコレを見たのでは無いかと思った。
でも、だからと言ってあんな事が許されるはずはない。
それなのに……。
何もあんなショック受けたような顔することないじゃないか……。
「身体が目当てだろう」と指摘した時の和樹の顔が頭から離れず透は頬杖をついてぼんやりと窓の外を眺め小さく息を吐く。
和樹のことは嫌いじゃない。
だが、それとこれとは話が別だ。
男同士だし、教師と生徒の関係。しかも、相手はまだ高校生。こんなの絶対駄目に決まっている。
「なーに黄昏てるんだよ。透センセ」
ずしりと頭に顎が乗り、背後から突然重みが加わった。耳に馴染んだバリトンボイス。
振り返らなくても誰だかわかる。
「ちょっと、色々あったんだよ」
「なに? 和樹と痴話げんかでもした?」
「……痴話げんか言うなよ。……別にそんなんじゃ……」
思わず洩れた溜息に、思うところがあったのかアキラが突然、透の両脇を羽交い絞めにして無理やり椅子から立ち上がらせた。
「わ、ちょぉっ! なんだよっ!?」
「ちょっとツラ貸せよ。どうせ、今の時間暇してるんだろ?」
戸惑う間もなく、半ば強引に引き摺るようにして職員室を出る。
「お、おいっ何処に……別に俺は暇なんかじゃ……ッ」
「いいから。暗くて静かで二人っきりになれるイイとこに行こうぜ」
「……お前が言うと変な意味にしか聞こえん」
「ふはっ、ひっでぇの」
そう言って笑うと、アキラは透の腕を掴んだままスタスタと歩き出した。
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