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一歩踏み出す勇気 4

「お前は、和樹がただ単にヤりたいだけで付き纏ってるって思ってんのかもしれないけどさ、俺にはそんな風に見えなかったけどな。お前がバスケやってる時の姿がいいとか、面倒見が良くて優しい所が好きだとか……ぁあ、あと」 「っ、も、もういい! なんか恥ずいから」 透は慌ててアキラの言葉を遮った。 まさか、そこまで褒められていたなんて知らなかった。 「……アイツは、お前が思ってるような中身スカスカな奴じゃないと思うぞ。純粋にお前の事が好きで、振り向いて欲しくて必死なんだよ。まぁ、やり方はアレかもしんねぇけどさ。……そこはホラ、若気の至りってヤツ? 若さゆえの暴走みたいな。お前にだって経験あんだろ」 「……」 若いから、暴走してしまう気持ち。好きで好きでどうしようもなく、どうにかして振り向かせたいと必死になる感情。それは、透にも身に覚えがある感覚だ。 その時はとにかく必死で、他人を思いやる気持ちなんて持ち合わせて無くて、好きな相手に嫌われたくなくて、自分を見てほしくて……。 なりふり構わず感情をぶつけた結果が今朝の出来事だったとしたら……。 和樹が自分の事を好きだと言っているのはもちろん知っている。 それを知っていながら、拒絶するわけでも受け入れるわけでもなく、中途半端に接していた。寧ろ、キスされた時点で拒まなかったのだから、もしかしたら?と、期待させた部分もあるだろう。 和樹の好意に甘えて、気持ちをちゃんと考えてやれていなかったのは、自分の方だ。 それなのに、和樹に酷い事を言って傷つけてしまった。 「お前はさ、顔に似合わず真面目過ぎるんだよ。意外と頑固だし……。もっと肩の力抜けよ。もう少し自分の心に素直になってみたらどうだ?」 「自分の心って言われても……」 自分は教師だから、立場と言うものを見失う訳にはいかない。だから敢えて考えないようにしていたのに。 「アイツの事、嫌いじゃないんだろう?」 「それは……まぁ」 アキラの言っている事はわかる。だが、どうしても一歩を踏み出す勇気が出ない。 「難しく考えるなって言っても無理だろうから、取り合えず、自分の本音に耳を傾けてみろよ。案外答えはシンプルなもんだぜ?」 そう言って、アキラは透の背中を強く叩いた。 「いてっ」 「んじゃ、そろそろ戻るか。頑張れよ、悩めるセンセ」 「……うるさい!」 アキラに励まされて、思わず照れ臭くなる。 (……アキラってホントお節介) でも、そんな友人が居ることが嬉しかった。

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