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一歩踏み出す勇気 7
「ねぇ、透ちゃん……。理人の言う事は極論だけど、一理あるとアタシは思うな」
コトリと目の前にグレープフルーツのような色をしたカクテルが差し出される。
「ナオミさん……。でも、俺……まだ自分の気持ちがよくわからなくって」
「ふふ、馬鹿ねぇ。一日の中でその子の事どれだけ考えてる?」
「え? えっと……?」
突然の質問に戸惑っている透に、ナオミはクスっと笑って透の顔を覗き込んだ。
「気が付いたらその人の事を思い浮かべてたり、傷つけたかもしれないって落ち込んじゃったりした経験は?」
そう問われて透はハッとした。思い当たる節がありすぎる。だが素直に認めるのは何だか恥ずかしい気がして、誤魔化す様に言葉を濁した。
「……それは、まぁ……」
「じゃぁもう、答えは出てるじゃないの。普通、なんとも思って無い子の事をそこまで考えたりする? ましてや傷つけてしまったかもしれないなんて、そうそう思わないわよ。それがどういう意味なのか、わからない透ちゃんじゃないでしょう?」
諭すような口調で言われて、思わずドキッとした。
ナオミの言葉は、まるで魔法のように自分の心の中にストンと入り込んでくる。
(あぁ……もしかして……)
もしかすると、いや、もしかしなくても……これはもう認めざるを得ないのだろうか?
「男って基本シンプルに出来てるものよ」
パチンとウインクしてみせるナオミを見て、透は思わず苦笑いを浮かべながらグラスに口を付けた。
「ありがとう、ナオミさん。なんだかちょっとスッキリしたよ」
「あら、そう? それは良かった」
見た目はアレだがやはりナオミは頼りになると改めて思った。
「理人もサンキュ」
「こんな下半身で物を考えるような男に礼なんて言わなくても良いわよ」
「おい!」
二人のやり取りを見て、思わず笑ってしまいそうになりながら席を立つ。今なら何だか何でも出来そうな気がする。
和樹ともう一度話をしよう。そして自分の気持ちを伝えよう。
今度は逃げずに向き合う番だ。
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