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一歩踏み出す勇気 9
「たく、受験生が風邪ひいたら困るだろうが。馬鹿」
軽く頭を小突くと、腕を引いて歩き出す。
「わ、ちょ……っマッスー!?」
驚いた様子の彼をそのまま引き摺るようにして、透は何も言わず自分の部屋へと向かった。
和樹も思うところがあったのか大人しくそれに従いついて来る。
「いいか、温まるまで出て来るんじゃないぞ」
半ば強引に浴室へと和樹を押し込み、和樹が着れそうな上着やタオルを適当に準備すると、透はキッチンで電気ケトルのスイッチを入れ、マグカップを二つ用意し始めた。
冷えた身体が少しでも温まるようにとミルクたっぷりのカフェオレを作る。砂糖の量がわからなかったので、スティックシュガーを差し入れとして添え、なんだか落ち着かない気分でソファに腰を下ろした。勢い込んで部屋に上げてしまったがこれからどうしよう。
いやいや、どうしよう。じゃないだろ。ついさっききちんと和樹と話をしてみると決めたばかりじゃないか。
でも、よくよく考えてみたら、自分の事を好きだと言って迫って来る男と家で二人きり。これって非常にまずい状況なのではなかろうか?
透は額に手を当てて天を仰いだ。
「……もしかして俺、無防備過ぎた……か?」
今更ながらその事に思い当たり、一気に顔が熱くなる。シャワーの水音がやけに生々しく響いて無意識のうちにごくりと喉がなった。
「はは……童貞じゃあるまいし……」
自分に呆れて乾いた笑い声が出る。だが一度意識してしまうと、なかなか冷静になれなくて、透は頭を抱えて項垂れた。
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