114 / 226

一歩踏み出す勇気 10

「あの、マッスー……シャワーありがと。って、なにやってんの?」 背後で扉が開く音と共に聞こえてきた声で我に返ると、慌てて振り向いた。そこには濡れた髪を拭きながら首を傾げる和樹が立っている。 「お、おう。ちゃんと温まったか?」 「うん、あーでもマッスーの服やっぱ俺には少し大きいみたい」 言われてよくよく見てみれば確かにワンサイズ大きい。これではまるで―― 「なんか、彼シャツみたいじゃね?」 「……ッ」 自分が思っていたことを口に出されて咄嗟に立ち上がると、和樹の頭にチョップした。 「痛っ、ちょぉ酷くない!? いきなり何!?」 「五月蠅いっ、ヘ、変な事言うなっ! 取り敢えず、カフェオレ作っといたから勝手に飲んでいいぞ!」 何だか妙に意識してしまった自分が恥ずかしくて、少し怒ったような言い方になってしまったが仕方がない。 透は逃げるように脱衣所へ向かうと、勢いよく扉を閉めズルズルとその場にしゃがみ込んだ。 「……何してんだ、俺」 あんな事言われただけで動揺するなんて、情けないにも程がある。 だが、この感情に名前を付けるとしたらやはり……。 「あー……やめよ。なんだか不毛な気がして来た。やっぱ酔ってんのかな」 これ以上考えると可笑しな方向に行きそうだったので、シャワーでも浴びて酔いを冷まそうかとズボンを脱ぎ捨て、上着に指を掛けた。 と、その時。 「マッスー、ごめん! 俺、また何かしちゃったかな――」 「え?」 いきなり扉がガラリと開き和樹が顔を出した。思わず服を脱ぎ掛けていた手が止まる。 「…………」 互いに数秒の沈黙のあと、和樹の視線が上から下までゆっくりと移動する。 そして――。

ともだちにシェアしよう!