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一歩踏み出す勇気 10
「あの、マッスー……シャワーありがと。って、なにやってんの?」
背後で扉が開く音と共に聞こえてきた声で我に返ると、慌てて振り向いた。そこには濡れた髪を拭きながら首を傾げる和樹が立っている。
「お、おう。ちゃんと温まったか?」
「うん、あーでもマッスーの服やっぱ俺には少し大きいみたい」
言われてよくよく見てみれば確かにワンサイズ大きい。これではまるで――
「なんか、彼シャツみたいじゃね?」
「……ッ」
自分が思っていたことを口に出されて咄嗟に立ち上がると、和樹の頭にチョップした。
「痛っ、ちょぉ酷くない!? いきなり何!?」
「五月蠅いっ、ヘ、変な事言うなっ! 取り敢えず、カフェオレ作っといたから勝手に飲んでいいぞ!」
何だか妙に意識してしまった自分が恥ずかしくて、少し怒ったような言い方になってしまったが仕方がない。
透は逃げるように脱衣所へ向かうと、勢いよく扉を閉めズルズルとその場にしゃがみ込んだ。
「……何してんだ、俺」
あんな事言われただけで動揺するなんて、情けないにも程がある。
だが、この感情に名前を付けるとしたらやはり……。
「あー……やめよ。なんだか不毛な気がして来た。やっぱ酔ってんのかな」
これ以上考えると可笑しな方向に行きそうだったので、シャワーでも浴びて酔いを冷まそうかとズボンを脱ぎ捨て、上着に指を掛けた。
と、その時。
「マッスー、ごめん! 俺、また何かしちゃったかな――」
「え?」
いきなり扉がガラリと開き和樹が顔を出した。思わず服を脱ぎ掛けていた手が止まる。
「…………」
互いに数秒の沈黙のあと、和樹の視線が上から下までゆっくりと移動する。
そして――。
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