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一歩踏み出す勇気 11
「――ご、ごごご、ごめっ、何も見てないからッ!!」
ジワジワと赤くなり両手で目を覆いながら大慌てで出て行こうとする和樹を、透は反射的に捕まえて引き寄せると後ろから腰にそっと腕を回して背中にしがみついた。
油の切れたロボットのように固まったままの和樹の首筋に顔を寄せる。自分がいつも使っているシャンプーの香りが鼻腔をくすぐり、微かに感じる体温に心臓の鼓動が激しくなる。
「……別に、怒ってる訳じゃない。ちょっと色々考え事してただけだから……」
「えっ、えっと……」
混乱して身動きが取れなくなった和樹は、耳まで真っ赤になって俯いている。
ああ、やっぱり。
初々しい反応が可愛いと思ってしまうあたり、自分は相当重症かもしれない。
戸惑いがちに彷徨う和樹の手を取ると、透は意を決して言った。
「なぁ、和樹……。俺はお前の事、やっぱりまだ生徒だって思ってる」
「……っ」
「だけど、それ以上に一人の人間として、大切に想っているんだ」
「それってどういう意味……? もしかして俺のこと嫌いになったってこと? だから、もう会わないって……」
「違うよ。逆」
「逆? それって――」
「だから……その……」
――お前の事が好きかもしれない。
そのたった一言が、口に出そうとすると喉の奥に引っ掛かって上手く言えない。
恋愛経験はそれなりにある方だと思っていたのに、いざとなるとこんなに臆病になってしまうなんて……。
透が己の不甲斐なさに打ちひしがれそうになった時、不意にくるりと身体を反転させた和樹がギュッと抱き付いて来た。
「ねぇ、それって……俺の都合の良い方に取ってもいいの? 勘違いとかじゃなく?」
「……っ」
確認するように問われて思わず息を飲む。しばらく逡巡したのち、小さくコクリと首肯した。
「そっかぁ……。そっかぁ……。ふへへぇ~」
嬉しそうに表情を崩す和樹を見て、今度は自分の頬に熱が集まっていくのを感じる。
――あぁ、もう……。
そんな風に喜ばれたら、ますます気持ちを自覚せざるを得ないではないか。
「と、取り敢えず風呂入って来るから。その……部屋で、待ってろよ」
「……ッ」
それだけ告げて和樹から身体を離すと、透は逃げ込むように浴室へ向かった。
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