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秘密の関係 和樹SIDE 9

透を名前で呼ぶ女(しかもちゃん付け)という時点で只者じゃないのだけは確かだが。 「……透、ちゃん」 「ちゃん付けすんなっ!」 ちょっと呼んでみただけなのにポカリと軽く頭を殴られた。解せぬ。 「マッスー酷くね!?」 「酷くない! たく、教師を名前で呼ぶな」 そう言って立ち上がった透の顔は、いつも学校で見る時と同じ表情に戻ってしまっている。 「そういや、さっき言いかけたのって何だったんだよ」 「……ッ もう忘れた」 絶対嘘だ。せっかくいい雰囲気だったし、何か言おうとしていたのは間違いないのに。 「ねぇ、何を言いたかったのか教えてよ」 「し、しつこいっ! 忘れたって言ってるだろっ」 「マッスーってば」 「うるさいな。ほら、送ってくから早く支度しろよ」 「えっ!? 今夜泊めてくれるんじゃないの?」 「は!? お前なに寝ぼけたこと……」 透が目を丸くして絶句する。 「俺、母さんに今夜はマッスーの家でお泊り勉強会だからって言っちゃったんだけど」 勉強道具も持って来ちゃったし、と続けると透は呆れたように肩を落とした。 「どうりで、道具が多いはずだ……。おかしいとは思ってたけどそう言う事かよ」 「だから、ね? 今夜泊めてよ。いいでしょ?」  にっこり笑って顔を覗き込むと、透は諦めたように大きなため息をついた。

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